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水谷隼「今のままで満足しない。 あえて敵を作って、 刺激を与えてもらえれば さらにぼくは成長できる」

「練習試合でぼくに勝てない選手は

本番の試合では

100%勝てないです。

本番のほうが

5倍増しくらいになるから」

決勝では前回競り合いになった張一博に完勝し、その強さを強烈にアピールした

 

 

周りの人も今の丹羽なら

水谷といい勝負ができるだろうという

期待を持っていた。

それを粉々にしてあげようかと思った。

 

今回の全日本は「誰が水谷を倒すのか」というより、「誰が水谷隼と競り合うのか」と予想され、昨年の岸川聖也、松平健太のような明確な対抗馬がいなかった。そういう状況の中で、6回戦で韓陽に完勝した丹羽孝希対水谷隼の試合に注目が集まった。出足からの水谷の気合いと隙のない試合ぶりは大会を通して出色の出来だった。

――勝つことよりも内容を求められた全日本。振り返ってどうでしょう? 特に丹羽との準々決勝はひとつの関門だったけど。

水谷 彼はユース五輪で優勝、インターハイでも優勝した。国際大会にも一緒に行ったりしたけど、あんまり成績を出せていなかった。ユース五輪もあのメンバー(出場選手)ならオール4―0で勝たなきゃいけないのに、競った試合もあった。世界ジュニアでも準々決勝で負けて、(ユース五輪の)優勝で満足しているように見えた。あれでは上を目指せないし、ぼくたちが丹羽に期待しているものは想像以上に大きいので、それを彼にはもっと自覚してほしい。同年代ではなくて、シニアに入って活躍してほしいし、プロツアーに行っても「負けてもともと」という感じではなく、次は絶対相手を倒すんだという気持ちを持ってほしい。

 

――丹羽との準々決勝の前日にダブルスで負けていたけど。

水谷 それはあまり関係ない……ないことはないけど、ダブルスの優勝インタビューで、彼が何かカチンとくることを言った。その時にこれはやるしかないなと思った。前日の会見でも「若い芽をつぶす」という強い言い方をしたけど、何かぼくの気に障ることを彼が言ったから、ぼくも強いことを言ったのかも。絶対倒す自信はあった。

周りの人も今の丹羽なら水谷といい勝負ができるだろうという期待を持っていた。それを粉々にしてあげようかと思った。丹羽と一緒にしないでくれという思いは正直あったし、(丹羽戦では)1本目から吠えていた(笑)。あんなに頑張ることはないのに。それだけ、気を抜いたら、ちょっとでも油断をしたら負けるかもという不安があったかもしれない。実際ダブルスでも負けているし。

 

――世界選手権でも夜遅くまで対戦相手のビデオを観て研究している、という話を聞いたけど、今回もそうだったのかな。

水谷 もちろん。去年の全日本のビデオも観たし、全日本で当たるような選手はすべて知り尽くしています。相手の弱点をあげろと言われれば何個でも出てくる。100%にしたいんですよ。今彼のことを90%知っているとすれば、ビデオを観ることでそれを90・1%にしたい。勝つ確率を100%に近づけたい。

丹羽戦は思っていた以上のプレーができた。今だったら何回やろうが彼には負けない。それを全日本という舞台で、彼自身とナショナルチームのメンバーに見せたかった。丹羽にすごく期待はしているけど、今のままじゃまだまだです。でも将来的にはものすごく期待している。

 

――松平健太も早くに負けたけど、「もっとしっかりしろよ」という思いもあるでしょ?

水谷 明大の水谷としては、彼が勝とうが負けようがどうでもいい。でもナショナルチームの水谷としてはかける言葉がない。去年失敗しているのに、なぜ今年もという感じで、周りが過剰に期待しているせいもあるかもしれない。ただ、昔を考えてみれば、あの年齢であそこまでのレベルに行くのはすごいことだと思う。

 

――でも若いけどすごい、というのは君が作ったイメージでもある。17歳で全日本で優勝したり、若くして国際大会で勝ったりした。年齢が低くても勝てるというイメージを作ったのは水谷隼だと思う。

水谷 ぼくはナショナルチームの中でも別扱いなんですよ。他の選手は選手同士でからむことが多いけど、ぼくは昔から誰ともからまないでひとりでいることが多いから、みんなはたぶんぼくのようになりたいとは思わない。選手同士が仲良くやっていれば、その中で仲間や先輩を目指して、レベルも同じくらいになるんじゃないかな。ぼくのことなんかみんなは意識してないですよ。

 

――丹羽に勝ったが、準決勝の高木和卓戦は少し競り合ったし、良いラリーも多かった。

水谷 練習試合でぼくに勝てない選手は本番の試合では100%勝てないです。本番のほうが5倍増しくらいになるから。1月10日くらいに東京アートに行って、卓さんに練習試合で負けて、「次、リベンジしに来るから。次は絶対勝つから」と言って帰った。大会直前にまた行って、それなりに頑張ってやったのにまた負けた。それで、気を引き締めないといけないと思った。

 

――でも正直、準決勝で当たるとは思わなかったでしょ。

水谷 はい。(高木和は)健太とはいい勝負だと思ったけど、(松平)賢二には分が悪いのかなと思っていたから、賢二が勝つと思っていた。準決勝で戦う前は、練習試合で2回負けたのに、ここで勝ったら悪いかなと(笑)。

最初の1本目にバッククロスで相手のフォアに打ったら、フォアストレートにスコーンとカウンターされた。練習試合でも(カウンターを)すごくやられていて、あれが得意だから。でも、さすがに練習試合みたいにはいかないだろとフォアに打ったら、やられた。もっと緊張してくれるかと思ったら練習と同じようにやってきたから、こっちも練習試合とやり方を変えようと思った。準決勝は厳しかった。1本の差だったし、相手も強かった。

 

――決勝の張一博戦は?

水谷 緊張していて、決勝を待っている間が嫌だった。体調も最終日はメチャクチャきつくて、丹羽戦の前の練習でも全然体が動かなくて、でも試合が始まったら予想以上に体が軽くて動けた。パンを3種類買っていたんだけど、決勝の前にはのどを通らなくて、少し食べてお茶で流し込んでというのを繰り返していた。それが一番苦しかった。

 

――決勝は3時にスタートして25分ほどで終わってしまった。

水谷 やっと一博に対して、思いどおりの試合ができた。いつも試合になると、予想以上に一博のボールに変化があって対応できなかったけど、初めて思いどおりのプレーができた。去年と一番違ったのはサービス、レシーブですね。去年はサービスが効かなくてラリー戦になったり、レシーブが単調になって、有利なラリーにならなかった。今回はサービスも効いたし、レシーブで先に攻めることができた。

 

――岸川が張に負けたあとに、張のブロックが崩せなかった、とコメントしていたけど、あのブロックを崩すのは大変なのでは?

水谷 やり方は二つあります。徹底的にブロックを攻めて、ブロックを打ち抜いてやろう、相手の得意な部分をつぶしていこうというやり方。もうひとつは、フォアに送る。バックに何本か送ったあとにフォアへ持っていくとミスが出るから。どっちでいこうかなと考え、最初はバックを狙ったけど、2ゲーム目から徐々にフォアを狙った。

一博とは試合前に、いい試合をしようね、と言っていた。毎試合、相手には最高のプレーをさせて、「最高のプレーをしたけど水谷には勝てなかった」というような試合をしたい。

試合前は、もし優勝したら泣くんじゃないかと思っていた。いろんな人にサポートしてもらって本当にありがたいと思っていたら、試合前に感傷的になって泣けてきた。

 

――勝っても全然泣かなかったね(笑)。

水谷 アレッと思いましたね。

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