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ペンホルダーは死なず。「韓国と中国の長所を取り入れた理想のスタイル」

2. 現代卓球では、

ペンはより攻撃的な部分を鍛えて、

相手よりも先に攻めていけば試合で勝てる

次に一般的な見方をすれば、現代卓球では、ペンホルダーはより攻撃的な部分を鍛えて、相手よりも先に攻めていけば試合では勝てる。サービスを持って、どこにレシーブされても3球目でフォアハンドで打っていける技術と脚力が重要になる。先に相手に攻められた時でもカウンターで攻めていける技術も必要だ。レシーブで強く切って返し、もしそのレシーブが長くなって相手が打ってきても、カウンターで攻め返していく。これは実際に馬琳などが、プレーの中に組み込んでいる迎撃システムだ。

馬琳、王皓に代表される中国のペンホルダースタイルは格下に強いスタイルとも言える。そのベースに「守りの強さ」があるからだ。負けにくく、崩れそうになっても、今なら裏面打法などでしのぎつつ持ち直す術を知っている。

一方、爆発力があり、バカ当たり的な強さを持っているのは韓国卓球だ。彼らのベースは守りではなく、「一発で仕留めるフォアハンドの強さ」だからだ。今まで勝ったことのない相手に勝ったり、予想外の勝ち方をするのだが、守りが弱いために取りこぼしもある。気持ちが落ちてきたり、消極的になったり、連戦で体力が落ちた時にもろさを露呈する。

この韓国卓球の典型が柳承敏で、アテネ五輪のように一気に優勝、しかもそれまで圧倒的に分の悪かった王皓を決勝で破るなど、当たりだしたら手のつけられない強さを見せるのだが、プロツアーなどで少しでも気持ちが守りになっていたりすると、初戦や2回戦で負けることもある。その点、中国は韓国スタイルと比べて守りがしっかりしていて欠点がなく、かつバックの裏面攻撃を持っているので、どこからでも得点が狙えるプレースタイルになっている。そのために取りこぼしも少ない。

 

王皓(ワン・ハオ):裏面の攻撃とフォアハンドの連続ドライブで、ペンホルダーにおける両ハンドドライブスタイルを確立した王皓

 

柳承敏(ユ・スンミン):爆発力のある韓国卓球は一気に優勝する可能性もあるが、下位の選手に取りこぼすという弱点もある。その代表格はアテネ五輪優勝の柳承敏だ。キーポイントは「メンタル」

 

3. 歴史的に見ても、韓国式スタイルが

日本選手にとって受け入れやすい

それでは日本のペンホルダーはどのような方向性を目指せばいいのか。

一般的に言えば、表面だけを使う韓国式でも、両面を使う中国式でも高い技術レベルがあれば、世界では勝てる。ただ、韓国式のようにパワーやフットワークに頼るスタイルは、彼らと同様な練習量や体力トレーニングがなくては世界で勝つレベルまで到達できないだろう。

練習量がある程度しっかりと確保できるのならば、日本式ペンホルダーラケットで、表面のみにラバーを貼った韓国式のプレースタイルは、歴史的に見ても、日本選手にとっては受け入れられやすい気がする。つまり過去に、日本からは同様のラケットで世界チャンピオンになった選手が何人もいるからだ。

裏面を貼って裏面バックハンドを振るならペンでなくてもシェークでもいいのでは、という考え方もある。その考え方はどうだろうか。ペンはシェークと比べても、フリック、ストップ、逆モーションと台上プレーがしやすい。それにサービスなどでもやはりペンのほうがシェークよりも指先の細かいラケット操作ができるため、変化がつけやすい。馬琳のサービスはその典型だろう。過去にも、いろいろな新種のサービスを開発したのはペンホルダーだった。サービスの名手、ワルドナーやシュラガーにしても、シェークの握りをペンホルダーのようにして、握り変えて出しているではないか。

 

4. 攻撃的なペンは最後は

「メンタル」がキーポイントになる

 

私見だが、理想のペンスタイルは、韓国のフットワークとフォアハンドを生かしたプレースタイルに、中国の裏面打法を取り入れたスタイルだろう。その場合は、両面に貼るラバーは中国製ラバーではなく、日本製ラバーを使う。バックハンドを使う場合は、シェークや中国選手と互角の強さを持っていて、それにフォアハンドの強打を持っているスタイル。もともとペンはフォアの打ち合いには強いのだから、それにバックハンドを加えれば鬼に金棒の攻撃卓球が形成される。

ペンホルダーのバックブロックというのは構造的な弱点だが、その弱点をカバーするためにも、台上で先手を取って攻め続ける。2007年の全日本選手権の田崎俊雄のように台上フリックで先手を取り続ける。もしくは甘いサービスはレシーブ強打、フリック強打で仕留める。返ってきても、4球目、6球目でフォアハンド連打していくことが、ペンホルダーではできるのだ。

シェークハンドは台上はそこまで攻撃的にできない。どうしてもストップからの展開になることが多い。それだけ攻撃的なスタイルを作れるペンホルダーであるがゆえに、最後は、「メンタル」がキーポイントになるだろう。つまり攻め続けている時には滅法強い。一気に勝っていく。ところが一度その気持ちが落ちたり、迷いが出ると、格下の選手にも負けてしまう。そういったメンタルに左右されやすいプレースタイルとも言えるのだ。

どんな時代でも、カットマンが存在し、勝てるように、シェークハンドだけでなく、ペンホルダーでも世界で勝つことはできる。

 

田崎俊雄:2007年全日本選手権では男子シングルスのベスト8に3人のペンホルダーが入った。田崎は得意の台上技とバックハンドを駆使し、ベスト4入りして気を吐いた

 

●まつしたこうじ/松下浩二

愛知県出身。桜丘高、明治大を経て、93年に日本人初のプロ選手の申請をする。世界選手権には12回、五輪には4回出場した、日本を代表する選手。守備を中心としたカットスタイルで世界で活躍し、2008年には日本人として史上初の夏季五輪5回連続出場を狙う。ドイツのブンデスリーガ、フランスリーグ、スウェーデンリーグ、中国のスーパーリーグと、世界のトップリーグで長く活躍した経験を持ち、その観察眼には定評がある。世界ランキング36位(2007年3月当時)

 

 

 

 

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