卓球王国 2022年1月21日 発売 vol.298
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水谷隼「オリンピックの舞台に立った人は、みんなが魔物に取り憑かれている」

団体決勝の2番で許昕に勝ち、ベンチに戻り、倉嶋監督と握手する水谷

 

たまたまチャンスが来たから

金メダルを狙うのか、

最初から金メダルを狙っているのか。

そこの差なんですよ

 

水谷の勝利で1-1にした日本は3番のダブルスに勝利を託した。もし、ダブルスが勝てばラストで水谷は張継科と対戦する。この試合での水谷の調子を考えれば、張継科にも勝てたはずだ。そして悲願の金メダルにも手が届く。

◇◇◇

3番のダブルスは練習場で見てました。チャンスありましたね。ここで勝ったら金メダルだと思いました。張継科の腰は相当悪そうで、試合後にトレーナーをすぐに呼んでいたし、ぼくも負ける気はしなかった。これは絶対勝てると思った。

でも、それは前日からの気持ちなんですよ。試合を見ていて絶対勝つという気迫が日本ペアから感じられなかった。

たまたまチャンスが来たから金メダルを狙うのか、最初から金メダルを狙っているのか。そこの差なんですよ。本気で金メダルを狙うためには、前の大会でメダルを獲っておく必要があるんですよ。そういう意味では、東京で金メダルを獲るためには今回メダルを獲る必要があった。

いきなり金メダルは獲れないですね。今回の反省としては、メダルを獲った時点で浮かれた気分になったから、金メダルに届かなかったという点です。世界選手権でも、39年ぶりの決勝に行ったからそこで満足して、あとは決勝で良い試合をしようという気持ちになる。実際に、その時には中国は圧倒的に力の差があると思っていた。

中国に対しては絶対オリンピックのほうが勝ちやすいんです。中国とやる前に自分も「中国に勝てる」という気持ちになってました。

ぼく自身は不完全燃焼かもしれない。ロンドンも今回も団体では負けていない。でもチームは勝てない。銀メダルを獲れたことには満足しているけど、中国に勝ちたかった。ロンドンと今回の団体戦を自分で白黒つけられなかったのはめちゃくちゃ悔しい。プレー自体は完全燃焼だけど、決勝の5番でやりたかった。5番でできなかった、中国に勝てなかったという意味での不完全燃焼です。

毎年自分が成長しているのは感じますね。オリンピックの中でも成長している感覚があります。今回は技術的なことを言えば、レシーブですね。どんなサービスが来ても完全にストップできます。今までは長く台から出ていたのが、それが完璧に止められるし、ミスもしない。サービスとレシーブで中国と対等にできた。

メンタルも成長している。メンタルが良くなったからレシーブも良くなった。ミスをしてもいいから自分を信じて、自分の思った角度でしっかりボールを止める。

カルデラノ戦や馬龍戦では、レシーブを2本連続でミスするケースが何回かあった。

今までは2本連続ミスすることはなかったけど、今回はミスをしてもいいから厳しいところに送るという意識があった。どうせレシーブが甘くなったら打たれるんだからと考えた。今までは1本ミスしたら次は安全に入れにいくというレシーブだったけど、今回は入れにいくのではなく、ミスしてもいいから厳しいレシーブをする。トータルで考えればそれが良かった。そのほうが点数を取れるんですよ。

 

4年前の空港のことは

鮮明に覚えていますよ。

屈辱的な扱いでしたから

 

 

「4年前の空港での屈辱的な記者会見は記憶にあるか」と水谷に聞いてみた。ロンドン五輪からの帰国。成田空港に到着した後に、女子と一緒に会見に行き、男子にはほとんど質問らしい質問もなく終了。もちろん報道陣の目的は史上初の五輪のメダルを獲得した卓球女子三人娘だった。

◇◇◇

4年前の空港のことは鮮明に覚えていますよ、屈辱的な扱いでしたから。悔しかった。屈辱的なことは常に覚えていて、いつか見返してやると思っています。それはオリンピックに限らない。ロンドンの時は帰国しても暇でしたが、今回はテレビにいっぱい出ている。それも全く違うことです。

常日頃から、男女間の扱いの差があり、同じ成績でも扱いが違うから、いつか見返してやると思ってました。それがモチベーションになっていました。もっともっと男子の卓球を見せつけたい。本当の卓球の魅力をこれから見せつけたいですね。ここまで来るのに10年かかりました。

去年から用具を変えてプレースタイルも変えてやったけど、まだ1年も経っていないのにこんなに変わり、急成長できた。あと2年、3年やり続けたらどこまで成長できるのかと思っています。だから4年後の東京オリンピックが楽しみです。

あとは身体だけですね。疲労回復や故障だけが心配。今回も何十錠も痛み止めを飲んで、何とかギリギリのところで耐えていました。筋力とか体力は昔よりも強くなっているけど、動きも良くなっているからこそ故障も起きやすいし、疲労が大きくなる。

今は良い意味で緊張の糸が切れた状態です。世界ランキングの一桁の選手、つまり中国の4人やオフチャロフ、サムソノフ、荘智淵、という選手は何かしら世界や五輪のメダルを持っていた。でも世界的に言えば、「水谷は何もないな」と思われていたと思う。この3年間くらいそれがコンプレックスだったけど、今回のメダルでそれがなくなった。

世界選手権の個人戦は2年に1回で、オリンピックは4年に1回の中で、毎回気にしていたけど、今回のメダルでやっとトップ選手の仲間入りができた。良い意味で糸が切れて解放された。

次は世界選手権の個人(シングルス)でのメダルを獲りたいですね。ワールドツアーだけだと目的意識を持てない。今まで大きな大会でのタイトルがなくて、ツアーでもがむしゃらにやっていたけど、オリンピックのメダルを獲れたから、落ち着いて、ガツガツしないで余裕を持って試合ができるかもしれない。実際にオフチャロフがロンドンでメダルを獲った後にそういうプレーをしていた。

今は外出しても声をかけられることが多い。うれしいというよりも、それだけ知ってもらえたんだ、オリンピックってすごいなと興奮するし、取材の記者の人が卓球に詳しくなっている。今までは、「卓球を始めたきっかけは?」なんていう質問から始まったのに、今は詳しくなって、よく調べてから取材に来るようになった。

結果だけではなく、男子の卓球を見てくれて、評価してもらえたのがうれしい。卓球にはそれだけ人々を魅了するだけのポテンシャルがあったんだから。

ただ、日本でぼくの試合がない。全日本選手権まで試合がないのが悲しい。今しかチャンスはないんですよ。今男女とも盛り上がっていて、これ以上盛り上がることはないんじゃないですか。東京オリンピックでメダルを獲っても、今回ほどは盛り上がらないかもしれない。「なぜ金メダルを獲れなかったんですか」とか言われる。今回は史上初のメダルを獲ったのだから、本当は今がチャンスだと思う。

 

オリンピックの舞台に立った人は、

みんなが魔物に取り憑かれている 

 

早くも「4年後の東京が楽しみです」と言い放つ水谷。彼はこの10年間、日本の男子チームをけん引してきた。「日本は強い」と言われているが、日本は「水谷のチーム」であり、そのエースはまだ「成長している」と言い切った。

◇◇◇

オリンピックの舞台に立った人は、みんなが魔物に取り憑かれている。みんながガチガチになっていて、早くその魔物から逃れようとするんです。

オリンピックではリードされても誰もが最後まであきらめない。1%でも可能性があれば誰もあきらめない。また4年後のオリンピックに必ず出られる保証はないのだから。これが最後のオリンピックになるかもしれないと思うからあきらめない。4年後の自分なんて誰も保証してくれない。

ロンドンからの4年間は山あり谷ありでしたね。プライベートでもいろんなことがあって、邱さんとも契約したし、でもそのすべてが自分のためになった。

オリンピックのメダルは子どもの時からの夢だった。その夢を今回叶えた。銀と銅っていいですね。次の目標の金メダルを目指して4年間頑張ることができる。

どこまで自分が成長していくのかが楽しみなんですよ。卓球を20年以上やってきて、今が一番強いと思うけど、結果もついてきて、まだ伸びる感覚がある。どこまで自分が卓球というスポーツで強くなれるのか楽しみです。

実際には、ぼくだけに頼られると疲れてくる部分はあります。この10年間、ぼくが日本を引っ張ってきた。ぼくが点を落としてチームが勝ったことはない。頼られるのは良いけど、強いから勝てるだろうと、みんなが安易に考えている気もします。

ぼくがいなかったら、日本は世界でもベスト8とか16くらいの成績? それは事実でしょう。ぼくがいなかったらどうなるんだろうと思っても、ぼくはいるんですよ(笑)。

メダルを獲ったことで少しは余裕が出ましたね。周りの人が喜んでくれるのもうれしいし、ぼくやチームが勝ったことで卓球が注目されて盛り上がって評価されるのはうれしい。これからは卓球を続けるやりがいが大きくなります。やっぱり観客が100人と1万人では気分が全然違いますから。

ジュンという名前は覚えてもらったけど、まだ「隼」でなくて、「準」と書かれることがある(笑)。まだまだですね。

今回、自分が歴史を作った自負はありますね。特に、今回は個人戦でメダルを獲れた。歴代の世界チャンピオンでも手にできなかったオリンピックのメダルは誇れますね。        (文中敬称略)

 

 

 

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