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インタビュー

【PEOPLE】卓球愛、そして人間愛溢れる縁の下の力持ち−伊藤大博

−−伊藤さんは日本卓球協会に務めながら、東洋大卓球部のコーチも兼任されているんですよね?

そうです。東洋大女子卓球部のコーチになったのが2020年の3月ぐらい。それこそコロナで入っていきなり大会がなくて、1発目の大会がオープン開催だった2021年の秋リーグだったと思います。それが初めての大会で、そこで3位になりました。その次のインカレ(全日本大学総合選手権・団体の部)でも3位になれて、2022年春リーグでも3位になれました。

岡崎日和(現在は百十四銀行)と青木萌恵(現在はNTT東日本東京)のベンチには沢山入らせてもらいました。私自身、指導者として沢山の経験をさせてもらいました。

青木と岡崎のベンチに入る伊藤(中央・写真は22年全日本大学総合選手権)

 

東洋大では、これまで弟とやってきた練習メニューが役に立ちました。私がちょうど社会人になって、指導者養成と競技者育成をやっていた時で、そこで勉強をしたことを弟に教えていました。講師としてオリンピアンを招いて、その場で研修合宿をやって、メンタルだったりフィジカルだったり、栄養の勉強もその三日間でやるんですけど、そこで勉強したことを持ち帰って、弟に伝えていました。なので弟を教えていたあの6年間は自分にとってもすごく大きかったなって思いますね。

 

−−そこ持ち帰るってすごいですね(笑)

その場で参加者と一緒に、大事なところはメモを取って、って感じでした。

 

−−伊藤さんはどれくらい練習を見ているんですか?

私は週に1回、土曜日に見に行っています。試合前は土日見ている感じですね。リーグ戦の前は、平日も、仕事が18時に終わって、そこから東洋大に行って21時まで練習を見て帰宅というのをやっていた感じです。なので帰る時間もかなり遅かった。

妻は大学の同級生で、娘がまだ2歳で手がかかる時にこうやって卓球で外にいかせてもらえるのは、妻の優しさかなと思いますね。妻には頭が上がりません(笑)

関東学生リーグでアドバイスを送る伊藤

 

−−今年の関東学生リーグで男子は弟さんの所属する日本大が優勝しましたね。かなりうれしいんじゃないですか?

弟の活躍は素直にうれしいです。ただ東洋大(女子)が2部に落ちてしまったので複雑です。今回はエースの子が早稲田戦の時に足を負傷してしまって、その後の試合に出れていなくて。でもやるべきことはやってこの結果でした。

東洋大はどの大会でも一番最初に会場入りしています。彼女たちが試合のスケジュールを決めているのですが、開場の1時間前ぐらいに集合して、外でウォーミングアップをやって、会場に入ったらすぐに練習できる状態を作っていて、こちらが「もっとこうした方が良かったんじゃない?」とか言える部分がないくらい完璧にやっていたので、今回勝たせてあげられなかったのは完全にこちらの力不足だったのかなとは思いますね。秋では必ず1部に昇格して、日頃チームを纏(まと)めてくれている主将の山口結愛と嬉し涙を流したいですね。

昨年のインカレの時も、愛知に連れていけるのって試合メンバーの8人ぐらいで、残りの10人ぐらいは東京に残っていました。予選が終わって、決勝トーナメントは抽選なので、どこと当たるかわからないんですけど、東京に残っている全員がラボライブの配信を見て、どの学校と当たっても大丈夫なように、全部の試合を画面録画して、抽選が終わって1回戦の対戦相手が出た時には全部の研究材料が揃っていて、次の日の朝起きたら分析も終わっているんです。東洋大は他の大学に比べると全国上位が揃っているわけではないですが、東洋大の良さはやっぱりそういったチーム力かなと思います。

東洋大は、江尻さんが男女監督でそのほか私を含めたコーチ3人体制で動いています。私は女子コーチで、男子コーチ1名(五十嵐コーチ)、男女のコーチ1名(馬場コーチ)で東洋大を見ています。私たち4人は、選手の練習に常駐することができないので、選手たちと意見交換をするのが難しい。そこで「掲示板」というのを馬場コーチが作ってくれて、選手が自分の試合や練習の反省を共有してくれて、それをこちらで見れる、いわば「卓球ノート」の電子版です。

この掲示板に選手が「この技術が入らない」みたいな反省を書いて、土日にその課題としている技術を解決してあげるというのをずっとやっている感じですね。

 

−−日本卓球協会の仕事と東洋大のコーチ、両立はかなり大変なのでは?

正直かなりきついです(笑)。今回も、関東学生リーグが平日に行われていて、日本卓球協会で有休をもらってやってます。大学生のために休みの時間はほぼ使っていますけど、学生とあの場で一緒に戦えるっていうのはお金をいくら出しても味わえない、そういう経験をさせてもらっています。特にインカレで3位になった時とか、本当は優勝を目指していたので3位になって悔しさもありましたけど、あの最終日に4コートしかない中で学生たちと一緒に喜びや悔しさを味わえた。代々木の会場(代々木第二体育館)でも、普通はベンチに座ることなんてできないのに、学生たちが頑張って座らせてくれている。そこはこちらも感謝しないといけないことですよね。

 

−−伊藤さんが数少ない休日を使ってまで、学生たちと向き合うそのバイタリティはどこからくるのでしょう?

卓球が大好きだから、ですかね?

卓球が大好きだからこそ日本卓球協会に入ったし、大好きだからこそ弟と毎日練習したし、今の東洋大のコーチというのがあると思う。まあ突き詰めれば「卓球が好き」ということだけかもしれないですね。

 

−−最後に今後の展望を教えてください

卓球協会としては、今年から有観客で開催となるので一人でも多くの人に会場に足を運んでもらい、選手のプレーを見てほしいというのと、47都道府県卓球協会・連盟の理事長さんだったり、運営に携わって頂ける方々と協力をしてやっていきたいなと思っていますね。

東洋大としては、秋リーグで必ず優勝する。そして東洋は今までインカレで優勝した経験がないので、ここはチームでも言っているんですけど、インカレで優勝する。インカレで優勝した学校は校歌を歌えるんですけど、江尻監督がいつも「インカレで優勝して校歌を歌うぞ」って言っているので、江尻監督に恩返しという意味も込めて、インカレで優勝して胴上げと、校歌を歌いたいと思います。

 

自分のことには口下手な伊藤だが、東洋大や弟のことになると饒舌に語り出すその姿は、卓球愛だけでなく、人間愛にも溢れていた。

見返りを求めず、純粋に卓球を愛し、常に誰かのために奮闘する。そこにやりがいを感じて走り続けている伊藤に大きなエールを送りたい。 

いとう・たかひろ

1994年2月26日生まれ、神奈川県出身。両親の影響で中学1年から本格的に卓球を始める。桐蔭学園高から東洋大に進み、大学4年時にはダブルスで全日学に出場。2016年に日本卓球協会に入り、日本国内の大会運営に尽力。20年から東洋大(女子)コーチも務める。弟・礼博は23年全日本混合ダブルス3位

 

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