来シーズン、日本男子は20名近くの選手がヨーロッパに向かう。
「WTTの試合が確定されず、国際大会が少なくなり、外国選手との試合をするため」と言う選手もいる。それは間違いではないが、一面的だ。
日本の男子選手は何かに飢えているのだ。
日本には2018年にTリーグが誕生した。母体企業の関係で「プロリーグ」と言えないのだが、プロリーグのつもりでみんなはやっているし、そう見ている。
世間では「卓球の人気が高まってブームが来ている」と言われている。我々も卓球界を鼓舞するためにそう言ってきた。果たして本当にそうなのだろうか。本当に人気が高まっているのなら、もっとTリーグのチーム数は増えているはずだ。
Tリーグでプロの卓球選手は増えた。実業団での安定した生活を捨ててでも卓球で飯を食おうとする選手が増えた。ところが、その増えた数に見合うだけのチーム数の増加が現時点ではないのだ。その状況に東京アート卓球部の休部が重なった。休部になっても、その選手たちをTリーグのチームは吸収できない。
東京アートの選手たちはヨーロッパに向かい、またTリーグで出場を約束されているような選手までもがヨーロッパに向かう。
すべてが素晴らしい生活がヨーロッパにあるわけではない。まず言葉の壁にぶち当たる。自分の要求や思いを英語や現地の言語に変換してコミュニケーションを取ることに苦労し、ストレスを感じる。
またブンデスリーガであれば、毎週のように試合が続く。移動はほとんど車だ。500kmでも600kmでも彼らは車で移動し、到着してすぐに試合をやることも珍しくない。日本のように新幹線(ドイツで言えばIC)や飛行機での移動はほとんどない。もちろん、それは経費の節約のためだ。彼らはマネージャーが運転する車でアウトバーン(ほとんどが時速無制限の高速道路)を200km近いスピードで突っ走る。
常に練習がたっぷりできるわけではない。試合、移動、練習を繰り返していく。彼らは実戦で力をつけていく。
ヨーロッパのプロ選手たちの楽しげに、しかしどこかヒリヒリとした緊張感での練習。観客がフェンスのすぐ横で見つめる試合。日本選手のようなきれいなスイングで、素直な弾道のボールを打つ選手はむしろ少数派だ。
予測外のフォームで、ボールがどこで打たれるかが読みにく選手が多数だ。型にはまった練習や指導者がない中で育つヨーロッパの選手たち。いくら中国が強くても、日本が台頭しても、彼らはその個性重視の卓球をやめない。自由を奪われる練習法や指導法を受け入れることなどできないのだ。
日本選手は経験したこともない移動や、試合での緊張感や卓球を楽しむ時間を共有する。その熱気や興奮が日本選手に充実感を与えるのだろう。
ヨーロッパは日本のような便利さと無縁の地だ。いろんな食べ物が簡単に食べられるわけではない。そこにすぐにコンビニがあるわけでも、ファミレスがあるわけでもない。友達もいない。しかし、そういう不便ささえも彼らを強くする、孤独という環境が強い男にしてくれるし、言葉のストレスにはいずれ慣れていく。
夏にヨーロッパへ渡る男たち。
宇田幸矢「ワクワクしています。どれだけ強くなるか、自分も楽しみです」
村松雄斗「もちろん久しぶりのドイツでの試合で不安もありますけれど、ワクワクした気持ちが不安を上回っています」
神巧也「やっぱりまだまだ強くなりたい。そして強くなれると思っています」
高木和卓「1試合目は緊張するでしょうね。でもそれを乗り越えたら大丈夫」
小西海偉「自分のこの年齢でどこまでできるんだろうという不安はあります。まあ、その不安が自分の力になっています」
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