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【卓球】挑戦と転機。いったい日本男子の中で何が起きているのだろうか!?

「ぼく自身が良い選手だったという
自信は持っているし、その自信が
指導者として仕事をする時に
関係がないわけではない」

海外で挑戦する選手もいれば、選手からコーチへ、そしてコーチから監督へ、という転機を迎える人もいる。
日本男子の卓球を、水谷隼とともに世界水準に引き上げた男が岸川聖也だ。2002年に中学生でドイツに渡り、3部リーグからスタートして、その後、1部リーグでプロ卓球選手として活躍し、9シーズン、ドイツでプレーした本物のブンデスリーガーだ。

岸川はドイツで練習をしながら、シーズンオフには日本に戻り、仙台育英高の時にはインターハイで3連勝を達成。それまで「日本式シェークハンドスタイル」だった日本の若手に強烈な刺激を与え、「世界標準のシェーク両ハンドスタイル」を定着させた男でもある。
その岸川がT.T彩たまの監督に就任した。
「ぼく自身が良い選手だったという自信は持っているし、その自信が指導者として仕事をする時に関係がないわけではない。(選手としての)自信を持ちつつ指導者として違う経験をして成長していきたい。急に良いコーチになれるとも思っていないし、良い選手だったから良いコーチになるとも思っていない」
岸川という男は口数は多くない。余計なことを言わない人、という表現があっているかもしれない。寡黙な印象を与えるために「将来、監督のようなリーダーシップを発揮したり、外部と交渉することができるのだろうか」と懐疑的な見方をするひともいる。
しかし、それは間違った見方だろう。
岸川ほど、正直で、無駄口をたたかずに、信頼できる男はいない。オーバーに表現したり、自分を過度にアピールしたりしない、嘘をつかない男だ。そして何より卓球の指導者として、彼ほどトップレベルの卓球を知り尽くし、戦術を知る日本人は少ない。若手からも慕われ、相談されることも少なくない。
監督就任前の全日本選手権では松平健太のベンチコーチに入り、決勝進出のために松平の背中を押した。
「ぼくは彩たまで健太の練習を毎日見ていたし、彼がどのくらい調子が良いのかもわかっていました。健太のできること、できないこと、苦手なことは全部わかっている。全日本だと、ふだん練習を見ていない人や、ただ知り合いという人がベンチに入るケースも多いけど、そういうのは選手も自分のチャンスを狭めているのではないかな。
ぼくは隼でも健太でも、『どのサービスを持っているのか、どのサービスが出せないのか、競った時にはこのサービスが使える、このサービスは難しい』というのを知り尽くしたうえでベンチに入っている。健太の時には特にそう思いました」(卓球王国最新号より)

世界水準で言えば、日本の指導者は国際感覚が乏しいと見られていることは否めない。10数年、日本ほど国際大会を多く経験した国はないのに、海外のクラブや協会から「日本の指導者に来てほしい」と招聘された話を聞いたことがない。
選手は外に飛び出していくのに、日本の指導者は「井の中の蛙」状態だった。
岸川聖也ヨーロッパを経験し、世界を知る初の指導者と言える。
岸川が飛び込んでいったヨーロッパに、来季多くの日本選手が挑む。

 

 

世界のバタフライから離れる転機。
松平健太は何を求めていたのだろう

全日本選手権で13年ぶりに決勝に進んだ松平健太。
彼は全日本選手権で好成績を出したうえで、大会前から考えていたことを実行する。
水谷隼の次の「天才的な選手」と言われ、15歳の時には世界ジュニア選手権で優勝した。彼の才能が世界の壁を破ることはその後なかったが、日本卓球界にはなくてはならない存在だった。
全日本選手権から2カ月経ち、3月末に松平健太は16年間サポートしてきたタマスとの契約を終了し、4月1日にティバーとの契約を発表した。
タマスとの契約終了を発表した日にはSNS上で、「次はVICTASか?」と卓球ファンを騒がせたが、松平が選んだのはドイツの老舗ブランド「ティバー」だった。
「タマスの多くの人たちとは仲が良くて、家族的な付き合いをさせてもらっていたので、すごく悩みました。ただ、ぼくの中で新たな挑戦をしたい気持ちを抑えることができませんでした」(卓球王国最新号より)

「全日本で成績を出したからティバーに移ったわけではありません」(松平)
タマスではできないけれども、ティバーだからこそできることがあったのだろう。とは言え、松平は現役の選手だ。特に彼は用具へのこだわりが強いことは有名で、だからこそまわりの人も驚いたはずだ。
「ラバーが使えないなら条件をいくら話をしても時間の無駄になるし、意味がないので、(金銭面などの)条件の話し合いは一番最後にしました。ラバーが良くないとティバーには行かないので試打をしてラバーが使えるかどうかという結果で決めようと思いました。
一番最後に使ったラバーがすごく良かったので、『これだったらバタフライと同等』」と感じて、「これならティバーに行ける」と思い、彼から条件を聞きました」。
「世界のバタフライ」という衣を脱ぎ去り、日本ではマイナーブランドも言えるティバーに移った松平にとって、2022年は転機の年となる。

 

もともと表紙を予定していた松平健太。しかし、契約が変わったために急きょ技術写真を含めて再撮影となった

 

 

2月の世界選手権代表選考会。この一発勝負のトーナメントで日本代表の座を勝ち取ったのは愛知工業大の横谷晟(よこたに・じょう)だ。
彼の名前は実は、2年前に水谷隼が上梓した『卓球王 水谷隼 終わりなき戦略』に登場する。
「選手の将来性を見る私が持つ感覚は、100%間違いないと思っている。日本選手で次に来るのは横谷晟だ。練習をしていてそれを感じた。彼の素質だけを見れば、この予想は絶対はずれない。日本男子を牽引するような選手になるだろう」と記している。
しかし、2年間、横谷がトップクラスに躍り出ることはなかった。
選考会で横谷が代表に決まると、水谷からすぐにLINEが来た。
「横谷きましたね」
五輪金メダリストも人知れず気にしていたようだ。

●ー以前、水谷(隼)くんが「次に出てくる若手」として横谷くんの名をあげていましたね。
横谷 「まさか」っていう気持ちでしたし、うれしかったですね。ただ、期待には応えたいですけど、その言葉がプレッシャーになることはなくて「自分は自分」という感じですね。(卓球王国最新号より)
横谷が水谷の予言を体現するかどうか、今後の彼に注目しよう。

ヨーロッパに挑む者、日本で転機を迎えた者、そして日本代表として飛躍するための切符をつかんだ者がいる。
この春、日本卓球界は大きく動いている。

 

 

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