今年11月に日本で初めて開催される、ろう者(聴覚障がい者)による世界最高峰の総合スポーツ大会「東京2025デフリンピック」。卓球競技は東京・東京体育館を舞台に11月19日から11月24日まで男女団体、男女シングルス、男女ダブルス、混合ダブルスの7種目が行われる。
地元でのメダル獲得を目指し、デフナショナルチームはおよそ月1回のペースで強化合宿を実施。7月25~27日には宮城・東北福祉大にて今年度6回目の強化合宿が行われ、男女4名ずつの東京2025デフリンピック日本代表内定選手が参加。仙台でも猛暑日となる過酷な暑さの中、みちのく学生卓球界の雄・東北福祉大の選手たちを相手に練習に励んだ。東京2025デフリンピック日本代表に内定している選手は下記の8名。
【男子】
川口功人(トヨタ自動車)
伊藤優希(日本製鋼所)
亀澤史憲(サムティ株式会社)
灘光晋太郎(太平電業株式会社)
2度目のデフリンピック出場となる川口功人。前回の2022年大会では団体銅メダルを獲得
伊藤優希は初のデフリンピック出場。回転量のあるドライブが持ち味
男子最年長32歳の亀澤史憲。デフリンピックには3度目の出場となる
灘光晋太郎は前回大会からさらに力をつけて2度目のデフリンピックに挑む
【女子】
山田萌心(明誠高校)
亀澤理穂(住友電設株式会社)
木村亜美(HOS)
山田瑞恵(SMBC日興証券株式会社)
デフナショナルチームの「末っ子」、高校2年の山田萌心。中学2年で初出場した前回大会では団体銀メダルに貢献
過去4度のデフリンピック出場で数多くのメダルを獲得してきた亀澤理穂。卓球競技にとどまらず、東京2025デフリンピックのスポークスマンとしても注目を集める
デフリンピック初出場となる木村亜美。ウリはパワフルなプレーと笑顔
山田瑞恵は3度目のデフリンピック。過去2大会でもメダルを獲得するなど経験、実績とも豊富
強化合宿ではシングルスの他、ダブルスの練習にも重点的に取り組む。選手それぞれ母体が異なり、居住地も北は北海道から西は島根までバラバラのため、強化合宿はダブルス強化の貴重な機会。2022年に開催された前回のデフリンピックでは女子ダブルスで亀澤/山田瑞が2大会連続となる銅メダルを獲得しており、今大会でもメダル獲得に期待がかかる。
東北福祉大の選手を相手に午前・午後とみっちり練習
東京2025デフリンピック開幕まであと100日あまりとなった中、日本ろうあ者卓球協会強化部長の大島剛さん(トヨタ自動車)はデフナショナルチームの現状について次のように語る。
「月に1回合宿をやっていますが、やっぱり大事なのは母体での日々の練習。合宿をして、そこから選手が母体で1カ月取り組んできたことを次の月の合宿でチェックしながら強化を進めている感じです。以前はまだまだと感じる部分もあったけど、大会が近づくにつれて選手たちも意識が高まって、体も絞れているし、動きのキレも良くなっている。選手に聞いても練習量やトレーニングを増やしているそうで、母体での練習をしっかりやれているように感じますね」
強化合宿には2名のスポーツトレーナーも帯同し、連日夜遅くまで選手の体のケアにあたる。トレーニングやケアについて専門的な知識を持つスタッフがいることで、「技術だけでなく、体への意識も変化している」(大島さん)という。
日本ろうあ者卓球協会の大島剛強化部長。日本リーグ・トヨタ自動車でプレーし、現在は総監督も務める
充実のトレーナー2名体制で体のケアも怠らない
さらに東京2025デフリンピックに向けて、デフ女子ナショナルチームには2人の「レジェンド」が加わった。2人のレジェンドとは、ともにデフリンピックで頂点に立ち、いくつものメダルを獲得してきた小浜京子さん(現姓・松島)と上田萌さん(現姓・南方)。小浜さんが監督、上田さんがコーチとして東京でのデフリンピックを戦うこととなっている。
また、デフ男子ナショナルチームのコーチには上田さんの兄で、日本代表の経験もある上田大輔さんが就任。中国代表として世界選手権男子ダブルス3位、来日後は全日学4連覇も達成した大倉峰雄監督(中国名・楊玉華)とともに男子の強化にあたっている。
「私としてはデフ日本代表として世界で戦った経験のある方々に、ナショナルチームの強化スタッフに入ってもらいたい気持ちが強かったんです。今回の(東京2025)デフリンピックで健常者が監督やコーチをすることもできるけど、やっぱりデフの方々が主役にならないといけない。東京のその先、ナショナルチームの未来を考えた時にも、デフの第一線で戦ってきた人たちが中心の組織になるべきだと思っています。健常者の私や大倉さんが、そのサポート役になるような体制が理想ですね。
デフの世界でレジェンドと呼ばれる方々なので、やっぱり選手にとっても刺激になりますよね。(亀澤)理穂にしても、小浜さんはデフリンピックを目指すキッカケとなった人物だし、萌とはダブルスも組んで世界で戦ってきた先輩・後輩。そうした人たちとまた一緒に戦えるというのは彼女にとっても、チームにとっても良い影響があるはずです。
男子コーチの大輔もリーダーシップがあって、組織の中心になっていける人物。選手も意思の疎通がしやすいと思います。今回のデフリンピックを、ろう者を中心とした、継続的に強化していけるナショナルチーム作りのキッカケにしたいですね」(大島さん)
女子の上田萌コーチ。現役時代は日本リーグ・日立化成(現・レゾナック)でもプレー
男子の上田大輔コーチ。ろう学校の教員でもある
今回の強化合宿にも連日さまざまなメディアが取材に駆けつけるなど、徐々に注目度も高まっている東京2025デフリンピック。デフナショナルチームは8月に愛知で行われる「AICHIフェスティバル」に参加し、9月以降も強化合宿を重ねて11月の開幕に向かう。
強化合宿には東北福祉大の千葉公慈学長も激励に訪れた
10月21日発売の卓球王国12月号ではデフリンピック事前特集を掲載予定。撮影の合間も楽しげな女子4人衆
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