1990年代から2000年初頭まで活躍したイングランドのカットマン、マシュー・サイド。イングランドの名門オックスフォード大学哲学政治経済学部を首席で卒業する頭脳を持ちながらも、卓球のイングランドチャンピオンであり、1992年バルセロナと2000年シドニーの五輪に出場した選手である。
自身の卓球における実体験と、多くのスポーツ選手や科学者の取材をもとにして2010年に書き下ろした『非才』。今回、その改訂版とも言える『才能の科学』が河出書房新社より出版された。
『才能の科学』 マシュー・サイド著
第1部 才能という幻想
第1章 成功の隠れた条件/第2章 「奇跡の子」という神話/第3章 傑出への道/第4章 神秘の火花と人生を変えるマインドセット
第2部 パフォーマンスの心理学
第5章 プラシーボ効果/第6章 「あがり」のメカニズムとその回避法/第7章 儀式の効果、そして目標達成後に憂鬱になる理由
第3部 能力にまつわる考察
第8章 知覚の構造はつくり変わる/第9章 ドーピング、遺伝子改良、そして人類の将来/第10章 黒人は優れた奏者?
以上が主な章立てである。随所に卓球の話が散りばめられ、スポーツ心理学や知的好奇心をくすぐられる内容となっている。サイド氏は2010年に『非才』を書いた後に、『失敗の科学』『多様性の科学』という世界的なベストセラーを上梓し、現在はイギリスの新聞『タイム』誌のコラムニストも務めている。
この書籍の原タイトルは『BOUNCE』である。この意味は、卓球選手たちならわかるはずだ。
bounceは日本語に訳せば、「跳ねる、弾む」という意味になる。つまり卓球ボールの「バウンドする様」なのだ。回転量やスピード、摩擦力で、ときに規則的に、ときに不規則にバウンドする卓球ボールを連想させる原題。
才能はときに想定内に軌跡を描き、ときには努力と練習量で想定外のところに弾んでいく、ということを著者は言いたかったのではないだろうか。
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