今大会、メイン会場であるルサイル・スポーツ・アリーナでは、世界選手権で初めて『VAR(ビデオ・アシスタント・レフリー)』が導入され、コートの周りに十数台のビデオカメラが設置されている。すでにサッカーや野球などでは、選手や審判が両手でモニターの四角形を描くアクションがお馴染みだ。卓球の場合は「TTR(Table Tennis Review)」という名称になる。
卓球では2019年のITTFワールドツアー・グランドファイナルで試験的に導入され、その後のワールドツアー(当時)で本格的に導入される予定だったが、コロナ禍などもあって実現しなかった。その後、2024年のITTF混合団体ワールドカップの最終日や、今年4月のワールドカップでより進化した「TTR」の導入が進められてきた。
メイン会場のコートにぐるりと設置された「TTR」用のビデオカメラ
審判の判定に対し、選手が「レビュー」を要求できるのは1試合で2回まで。成功すればレビューの権利は2回のままで、失敗すると1回に減り、2回失敗するとその試合ではレビューは認められない。これは他の多くのスポーツと同じだ。
レビューが要求できるのは、ボールがエッジで入ったかどうか、妨害がないかというケースを除いて、ほとんどがサービスに関するもの。最低16cmというトスの高さ、最大30度というトスの角度、サービス中のボールの視認性(隠していないか)、プレイングサーフェスの下へのサービストスや、ボールが常にプレーイングサーフェス(卓球台)より高い位置にあるか……などだ。
昨日の大会初日、篠塚大登対薛飛(中国)戦で、篠塚が打ったボールがエッジで入っていないかというレビューの要求を行い、これは「入っていない」という判定だった。 そして王楚欽(中国)対N.ナレシュ(アメリカ)戦では、王楚欽のサービスに対して「トスが斜めに上がっている」として、審判がフォルトの判定を下したのに対し、王楚欽がレビューを要求。結果は「24.67度」で、ルール範囲の30度内に絶妙に収まっていた。中国ではVARのことを「鷹眼(ホークアイ)」と呼ぶので、「王楚欽鷹眼挑戦成功(王楚欽のVARのリクエストが成功)」と話題になっている。
王楚欽のレビューの要求に対し、確認する主審
サービスの高さもこれだけギリギリを攻める王楚欽。審判にとっても判定するのはひと苦労か
かつて2019年の世界選手権女子ダブルス決勝、伊藤美誠/早田ひな対孫穎莎/王曼昱(中国)戦、ゲームカウント2−2の9−9という重要な場面で、普通に入ったように見えた早田のサービスが「レット」と判定され、この試合に惜敗するというケースもあった。どの選手もルールの許容範囲ギリギリでサービスを出そうとする中で、審判の判定もより困難になっており、「TTR」の導入は選手だけでなく、審判にとっても朗報となるかもしれない。
ただ、今大会に限っていえば「TTR」はメイン会場のルサイル・スポーツ・アリーナの2台にしか導入されておらず、カタール大学体育館の6台には設置されない。競技環境としては不公平という印象が否めないが、まずはメイン会場の2台で確実に運用していくということだろう。今大会のこれからの試合で、「TTR」が勝負のポイントになる場面が出てくるのか?
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