千匹のネズミがいれば、
象を倒せるかもしれない。
いつ倒せるかわからないけど、
倒しがいのある相手です
ーー正直に言えば、年間数千万円とも言われるお金を投入して、その分を、会社の利益でまかなうことは簡単なことではないですね。仮に1千万円、2千万円の利益を出そうと思ったら、数千万円の売上をあげないと、「元が取れない」と考えるものですが、こういうオフィシャルサプライヤーは宣伝効果による売上増だけでは考えてはいけないのですね。しかも、ブランディングとか、社員の士気というものは費用対効果として見えないものです。
松下 獲りに行くのは、投資であり、権威付けですね。社内的にも「オリンピックで着ているウエアはVICTASだ」というのは誇れるものだし、営業スタッフは対外的にも「VICTASは日本代表ウエア」というのは「ウリ文句」になります。もちろんおっしゃるように目に見えない価値がそこにあるわけです。
特に前のTSPは長い歴史を持っていましたが、VICTASはまだ若いブランドなので、これから価値を高めながら歴史を作らなければいけない。
ーーもちろん日本男子にどんどん勝ってもらわないと投資の意味はないということですね。
松下 もちろんそうです。頑張ってもらわないといけないし、全面的に応援していきます。
ーー途中、松下社長が(Tリーグで)いない時期はありましたが、前回と今回、やることは変わりますか?
松下 実際にやってみて、良かったこと、良くなかったことがあります。そして、まだやっていなかったこともあります。いろいろやるべきことはありますね。
ーー日本代表は男子も女子もあります。女子のほうがテレビに登場するのは多いけど、あえて男子だけにターゲットを絞って、2回連続サプライヤーを獲った、その狙いとは何でしょう?
松下 VICTASというブランドは、もともと男子にターゲットを絞り、「タマス(バタフライ)に勝ちたい」と思って作ったブランドなので、男子しか考えていなかった。とんがったブランドにしたかったし、当時はTSPというブランドがあったので、VICTASでカバーできない卓球ファンはTSPで補うという戦略でした。
それに卓球市場でも、男子が65%、女子が35%という割合なので、人気は女子代表選手があるけど、テレビを見ている一般の方々は卓球用品を買うわけではない。ミズノさんのような総合スポーツメーカーは女子の(スポンサーの)ほうが良いと思いますけど、VICTASは卓球メーカーだから、まずは市場の65%を獲るために男子に注力しました。
ーー世界のリーディングカンパニーで、ある程度の潤沢な資金があり、会社の規模も比べようもなく大きいタマスに対して、立ち向かっていくのはなぜなんでしょう。しかも、ナショナルチームはバタフライ契約選手のほうが多い状況の中で、挑んでいく意味とは何でしょう。
松下 簡単です。やっぱり1番になりたい。タマスさんに勝たないと1番にはなれない。今は、蟻(あり)とかネズミが象に向かっていくようなものです。一匹のネズミではどうしようもないけど、千匹のネズミがいれば、象を倒せるかもしれない。いつ倒せるかわからないけど、倒しがいのある相手です。まだライバルになってはいないかもしれないけど、タマスさんに追いつき追い越そうと思えば、当社商品力も上がり、微力ながら卓球市場全体へも貢献できるのではないか、と思います。そういったタマスさんの存在には感謝しなければいけないと思います。
ーー2025年3月まで、途中パリ五輪もあるわけですが、この間にVICTASをどういうブランドにしていきますか?
松下 ウエアに関して言えば、機能性を高めて、日本代表が勝てるようなウエアを提供することが第一です。日本の勝利に貢献したいですね。もちろん、日本が勝つことでVICTASが売上を伸ばし、その利益を社会に還元していきたい。
VICTASは用具の商品力も上げていきますけど、卓球総合サービス企業として、良い商品を作るとともに、卓球を広く普及させたり、卓球を通じて社会課題を解決したりと、他のメーカーと違うことをやり続け、社会貢献をしていきたいです。今回のオフィシャルサプライヤーの獲得はその第一歩です。 (4月13日)
聞き手:今野昇
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