もともと大阪の松竹芸能に所属する芸人だったケチャップさん。松竹を辞めて上京し、横浜スタジアムで横浜ベイスターズ(現:横浜DeNAベイスターズ)のスタジアムDJを担当したのが、スポーツDJとしての第一歩だった。
なぜだか印象に残る「ケチャップ」という名前は、松竹時代につけられた芸名だそうだ。「松竹は本人じゃなくて、事務所が芸名つけるんですよ。それでぼくは口の周りにケチャップがついてたっていうんで『ケチャップ』。やめてくれって言ったんですけどね。それで歳がいって、さすがにケチャップだけじゃ恥ずかしいっていうんで、DJをつけたんです」(ケチャップさん)。
−他のスポーツの現場もいろいろ見てきたケチャップさんが、ファンサービスの部分ではTリーグはどこが足りないと感じますか?
DJ:ひと言でいうと、「アスリートファースト」が過ぎます。絶対にそこを一回、ぶち破らなきゃならないですね。Tリーグは全日本選手権じゃなくてプロリーグですから、アスリートファーストの概念を早く捨てて、絶対に「ファンファースト」にしないといけない。エンターテインメントなんだという意識を、もっと持ってもらわないとダメですね。
みんな選手に気を遣って、「これはやっていいのか」「あれはやっちゃいけないのか」と言っているけど、それなら一回やってみて失敗したほうがいい。400人しかお客さんが来ていない状況で、何を恐れてるんだと正直思います。卓球がオリンピックであれだけ盛り上がって、入場制限があるとはいえTリーグにこれしかお客さんが来ないのは、それだけTリーグに魅力がないからです。
たとえば会場にしても、今度岡山リベッツが地元のイオン(ショッピングモール)でやりますけど、ずっとそういうとこでやりましょうよって言ってたんです。フロアがどう、照明がどうという話が出てくるけど、最低限の条件さえクリアしていれば、お互いに同じコンディションで試合をするわけですから。片方のチームだけ不利になるのはダメだけど、平等な環境ならやればいいじゃないですか。
大事なのは選手の「ブランディング」だと思うんです。お客さんに会場に足を運んでもらうために、どうすれば選手に感情移入してもらえるか。地域密着なら地元の教育委員会と組んで、Tリーグの選手たちが部活訪問するとか、体育の授業に卓球を教えてあげれば、見に来てくれる子どもも増えると思います。試合の前後に会場で卓球教室をやってもいい。ハーフタイムの間に地元の強豪校同士の選手を1ポイントマッチで対戦させたり、地元の学校の吹奏楽部の演奏で選手を入場させるのもいい。そうすれば、吹奏楽部の部員の保護者や関係者も卓球を見に来るじゃないですか。
できることはいっぱいあるのに、それをやる勇気がない。守ってちゃダメですよね。ファンも選手も、やろうって言えばついてくるはずです。石川(佳純)さんなんてファンサービス、すごいですよ。お客さんのことをよく考えている。張本くんもインタビューで「お客さん喜ばせて」って言ったら、ちゃんと沸かせるようなこと言いますから。
今年と来年、この体制のままで続いていったら、Tリーグは発展の可能性が狭(せば)まってしまうかもしれない。偉そうですけど、嫌われても言い続けてやろうと思っています。
Tリーグの現状に対しては舌鋒(ぜっぽう)鋭いケチャップさんだが、それも卓球というスポーツと、それを愛するファンへの想いゆえだ。昨シーズンは大半が無観客開催で、今シーズンも入場制限を設け、自由に声援を送ることもできない中で行われているTリーグ。コロナ禍が明け、ケチャップさんのDJで思い切り選手たちに声援を送れる日が来ることが待ち遠しい。
「ぼくは今46歳ですけど、ぼくらの世代がモジモジしちゃうと、子どもたちが人の顔色をうかがって生きていくことしかできなくなってしまう。いかにぼくらが『バカ』になってあげられるか、ですよ。大人がバカになって、思い切り楽しんでいる場所って、子どもたちは憧れるじゃないですか。卓球のファンの人たちにはそのポテンシャルがあるので、それを出し尽くせるような雰囲気を作っていきたいですね」(ケチャップさん)。
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