Tリーグの2シーズン目、2019年の立川立飛での開幕シリーズ。開場から間もない、ざわついたフロアをやたらと歩き回り、やたらと周りに話しかけているひとりの男がいた。「なんだか暑苦しい人がいるな」。誠に失礼ながら、それが第一印象だった。
しかし、試合開始の時間が近づき、マイクを握ったその人は観客をグイグイあおり、手拍子やスティックバルーンでの応援をリードし、スタンディングオベーションまで巻き起こしてしまった。会場は見事に温まり、試合も好ゲームの連続。ビクトリーマッチでの劇的な決着の後、拍手が鳴り止まない会場で「Tリーグって、最高じゃないですか、皆さん!」と呼びかけたその人の名は、DJケチャップ。卓球のみならず、野球にサッカー、テニスにバスケットボール、フェンシングにマラソンと様々なスポーツの現場をトークと音楽で盛り上げる、スポーツDJのトップランナーだ。
−ケチャップさんがTリーグの会場でDJをやるようになったのは、どのような経緯からですか?
DJケチャップ(以下DJ):卓球はやりたかったんですよ、前から。競技人口も増えていると聞いていたし、スポーツとしてすごく可能性を感じていたんです。もう演出ができあがっている野球とかサッカーに比べて、新しいエンターテインメントという部分でも魅力的でした。Tリーグが国技館で開幕戦(2018年)をやると聞いて、「だったら俺、やりたかったのになあ」と思いましたね。
それまでも(東京都)渋谷区のオリンピック・パラリンピック関連のイベントで、JOCエリートアカデミーの宇田(幸矢)くん、張本(智和)くん、長﨑(美柚)さん、木原(美悠)さんとかと一緒になる機会が何度かあって、いろいろ話もしてたんです。それでTリーグの事務局の人と知り合いになったのをきっかけに、「Tリーグでもぜひやらせてください」と直訴しました。
当時チェアマンだった松下(浩二)さんと食事をした時、松下さんはぼくがフェンシングの会場でもDJをやっているのを知って、日本フェンシング協会の太田(雄貴)会長にすぐ連絡してましたね。「ケチャップさんに今度Tリーグもお願いしようと思ってるんだけどどう?」って。それで「じゃあ1回やってもらいましょうか」と。初めてTリーグの会場でやったのは、2シーズン目の立川立飛アリーナでの開幕シリーズですね。
−Tリーグの観客は、プロ野球などの観客と違って静かな印象も受けます。やってみてどうでしたか?
DJ:「これ最高だな〜」と思いました。皆さんが愛情表現をどれだけしてくれるのかなと思いましたけど、最初の拍手で「すげーじゃん卓球! できるじゃん!」と思いましたね。「できるじゃん!」って言い方は失礼かもしれないけど。
拍手が起きた時、音でわかるじゃないですか、気持ちがこもっているかどうかって。卓球ファンの拍手はマジで音でわかるくらい、心がこもっていると思います。これはリップサービスじゃなくて、本当にそう思いますよ。
−卓球のファンは基本的に「おとなしい」というイメージなので、いろいろなスポーツの現場を知っているケチャップさんに褒めてもらえるとうれしいですね。
DJ:卓球はファンの方も、「我々卓球なんで……」って一歩引いているところがありますけど、「そうじゃないよ」って思うんですよ。みんなどこかで、気持ちを解放したいタイミングだったんじゃないかとぼくは思います。そこにDJとして関われるようになったのはラッキーでしたね。
卓球のお客さんはマジで、本当に良いです。今年の東京2020でも、新競技のサーフィンとかスケートボードには、相手を称える文化がありますよね。転んじゃった選手がいてもみんなで抱きかかえたり、すごく良いシーンがあった。卓球にもそれと似た雰囲気があります。応援しているチームの対戦相手でも、良いプレーにはちゃんと拍手を送って褒め称える環境、雰囲気があるし、心ないヤジもない。そこが素敵だなあと思うし、可能性を感じる部分です。卓球の会場は、ぼくにとってはめちゃくちゃ良い環境です。
−卓球は野球やサッカーと違って、ラリーが始まる前は静かにしないといけない。そこにやりにくさはないんですか?
DJ:いえいえ、テニスもそうですけど「オン・オフ」のスポーツなんで、盛り上がる時は盛り上がっていいんじゃないかなと思います。
ぼくの演出については、応援してくださる方もいれば、否定的な方もいるし、今までの観戦の仕方を否定するつもりもない。ただ、これから変えられるところもまだまだあると思っています。今もツイッターと連動してファンのメッセージを読んだり、タオルブレイクの時に手拍子の音楽を挟んだり、いろいろやっています。違うと言われても、そこはぼくも追求していきたい。今はまだファンサービスも30%、40%くらいですよ。
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