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王者、恐るべし。 水谷隼[対談アーカイブ]石川佳純

 

話をしていると、負けず嫌いとか

勝利への執念とか、

すごさを感じます。

練習量はメチャクチャ多い(水谷)

 

(2015年)4月上旬、都内の撮影スタジオにヨーロッパ遠征から帰国し、「時差ボケなんです~」と言いながら、天真爛漫な笑顔を見せ現れた石川佳純。チャンピオン対談にテンションは上がっていったが、清廉な雰囲気は相変わらずだ。一方、どこかはにかみながらも対談を楽しみにしていた水谷は、質問をさらりとかわしつつも本音をぽつりと吐き出す。

向上心の塊の石川と、達観しつつハングリーな水谷の掛け合いは興味深いものだった。

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●--対談をして、改めて水谷選手から見た石川選手は?

水谷 向上心がすごいですよね。卓球においては、技術でも戦術でも何でも柔軟に対応できるところが、他の女子の選手とは大きく違うところかもしれないですね。引き出しも多いし、勝負所での思い切りの良さもある。

話をしていると、負けず嫌いとか勝利への執念とか、すごさを感じます。練習量はメチャクチャ多い。できる限り、ぼくも練習はやっていきたいと思う。プライベートコーチがいると自分の好きな時間に好きなようにできるけど、ぼくの場合はお願いして練習をしている立場だから自分の練習ができない。あくまでそこのルールに則った練習しかできない。プライベートコーチがいて自分専用の練習場があったらぼくも毎日6時間は練習できる。

 

●--石川選手から見た水谷選手は?

石川 分析するのは難しいけど、参考にする部分は多い。同じ左利きだから、コース取りとか、自信を持った戦いぶりは参考になります。

 

●--水谷選手と練習したことはありますか?

石川 去年一度だけ練習したけど緊張しましたね。ボールは重いし、ミスする要素がない。合宿とかで練習を見たり、ゲーム練習を見たりするのも勉強になりました。

水谷君はどうやってモチベーションを保ち続けるのか? ないように見えて絶対ある。なかったらあのポジションにはいられない。でも、本音で答えてくれないからな(笑)。どうすれば私はもっと強くなれるのか、もっとレベルアップできるのかを聞きたい。まじめに答えてほしいですね。

 

●--強くなるために石川選手自身が考えるポイントは?

石川 メンタルかな。まずは自分より強い選手に勝つ決意を持つこと、そこで初めて意識がついてきて練習ももっと頑張れる。試合の中で勝てそうになっても、勝つ決意がないと絶対勝てないとずっと思っている。

 

●--ランキングが上がっていけばいくほど、技術だけでなく、「最後のここで1本ほしい」という時にはメンタルが左右するということですね。

石川 絶対そうです。1本ほしいのは私だけでなく、みんながほしい。そこで点を取る、勝つためにはメンタルが重要です。いくら技術があっても、それを使うメンタルがなかったら何もできない。最後はメンタルだと私は思っています。

勝つに越したことはないけど、負けた時にその敗戦を次にどう生かすかが重要だと思う。負けっ放しは一番ダメ。反省もしない、練習方法も考えないのは一番ダメ。勝つのが一番だけど、負けても悪いことだけではない。

もちろん勝てば勝つほどやる気は湧いてきます。今やっていることが正しいんだと思える。負けた時には何がダメで何が良かったかを反省するようにしています。世界の舞台では同じ相手と何度も戦うから。

 

●--水谷選手、石川選手がさらに上に上がるためには何が必要でしょう。

水谷 あと2倍の練習をする。

石川 ほら、まじめに答えてくれないでしょ(笑)。(2倍の練習だと)寝る時間がなくなっちゃう。

水谷 やっぱりボールの球威、回転ですね。女子の中でも佳純ちゃんのボールは軽いほうだと思う。普通の選手が3本、4本で決まるボールが、5本、6本と続いてしまう。それが3本くらい打って決まれば、もっと勝ちやすくなる。

技術的に言えば、弾くだけでなく、もっと擦る感覚で回転をかける。回転量が多くてスピードがあることで相手は取りづらくなる。特にプラスチックボールになってからは、回転をかけるとナチュラルに変化してくれるので得点につながりやすい。佳純ちゃんは以前よりもボールのスピードは上がっているし、攻めも厳しくなっているけど、回転量がもっとほしい。

それに、誰もやっていないことをやったほうがいいし、男子の卓球に近づけること。YGサービスとかチキータもそうだけど、男子の世界のトップ選手が使っている技術を身につけるべきだと思う。

 

たぶん、水谷君はなりたいと

思ってほしいんじゃなくて、

オレみたいにはなれないと

思っているんですよ(石川)

 

●--二人にはチャンピオンとして日本を背負っている自負と自信があると思うけど。

水谷 他の日本選手と自分とでは大きくかけ離れていると感じています。だから自分を目指してほしいとか、憧れてほしいとは思わない。

石川 いや、水谷君を見て憧れている人はいっぱいいると思う。水谷君の卓球を見たら面白いと思うから。

水谷 見るのはそうだけど、実際にオレみたいになるというのは別だから(笑)。

石川 憧れと言うよりも、私は強いチャンピオンでいたい。負けないチャンピオン。技術だけじゃなくて、すべてが揃っているチャンピオンと思ってもらえるように、これからもっともっと強くなりたい。

水谷 やっぱり憧れてほしいんじゃないの(笑)。

石川 憧れてほしいというのはない。こうなりたいと思ってもらえる姿でいたい。昔、試合を観に行って、自分自身がこういう人になりたいとか、サインをもらって感激したりとかして育ってきたので、そう思ってもらえる選手になりたい。プレーだけじゃなくて、行動も含めて。水谷君はファンに対してサインが丁寧です。ファンを大切にしている。知ってますよ(笑)。だから憧れるチャンピオンなんです。

水谷 ありがたい言葉で、照れちゃいました(笑)。

石川 たぶん、水谷君はなりたいと思ってほしいんじゃなくて、オレみたいにはなれないと思っているんですよ(笑)。

水谷 やばい! 心の中を言われた!

石川 ばれてる、ばれてる。「みんなにはオレみたいになれないよ」と思っているから(笑)。

水谷 見透かされてしまいました。だって、なれないでしょ。そこはオレと佳純ちゃんは一緒でしょ? (佳純ちゃんも)自分みたいになれないと思っているでしょ?

石川 わからない。本当にわからない。とても運がいいと自分は思っています。

水谷 運じゃないよ、実力だよ。

石川 ただ、誰にも負けないものは、自分の負けず嫌いの部分。人をやっつけるというのではなく、負けるのは嫌。悔しいし、次に勝つために作戦を考える。

水谷 ぼくは卓球ではそうでもないですよ。負けたくないとは思うけど、実際には負けるじゃないですか。

もうひとつ聞きたいんだけど、勝った時と負けた時ってどっちが次につながる?

石川 どっちかと言えば負けた時かも。でも大きな試合で負けると自信がなくなる。

水谷 オレなんか、負けるとすねて暴飲暴食とかしちゃう。勝った時のほうがこのままやればもっと上に行くんじゃないかと考えられる。

石川 大きな試合で負けると自信がドッとなくなるけど、小さな試合とかワールドツアーとかで負けた時には大きな試合のためにはすごく勉強になる。ずっと勝っていると慢心してしまうから。

水谷 オレは勝てば勝つほど、もっと行けるんじゃないかと、もっと勝つことに飢えてくる。負けるとオレはここまでなのかと考えるけど、優勝するとどこまでまだ上がるんだろう、オレはどこまで上に行くんだろうと思えるから。

石川 負けた時にはこの悪いところを直したらもっと強くなると思うし、気持ちがリセットされて挑戦者のようにできる気がします。

●--話は尽きませんが、今日はこの辺で。ありがとうございました。

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卓球王国としてチャンピオン同士の対談を組んだのは創刊以来初めてのことだ。先輩チャンピオンの水谷隼が石川佳純にアドバイスを求められながらも、同時に質問を発する。チャンピオンしかわからない興味と境地が存在するようだ。声には出さなくても、二人はお互いにエールを送り、理解し合っている。

世界5位の二人は、目の前にそびえ立つ中国国家チームという絶壁を一歩ずつ登っていこうとしている。そこには日本人だからできる努力の方法があり、希代のチャンピオンとして到達すべき高みがある。

本音の部分から見えた不安と自信。日本の頂点に立つ者の重圧と、世界の頂点に立ちたいという本能がぶつかり合う。二人は壁が険しければ険しいほど、闘志に燃えるのだ。

王者、恐るべし。                      

(文中敬称略)

 

 

水谷隼●みずたに・じゅん

1989年6月9日生まれ。静岡県磐田市出身。青森山田高、明治大卒。全日本選手権のバンビ・カブ・ホープスの各年代で優勝。ドイツ・ブンデスリーガでの卓球留学によってその才能を磨いた。09・13年世界選手権では、岸川聖也と組んだダブルスで銅メダルを獲得。全日本選手権では史上最年少の17歳7カ月で優勝し、平成26年度全日本選手権では7度目の優勝を達成。2014年ITTFワールドツアー・グランドファイナル優勝。世界ランキング5位(15年4月現在)

 

石川佳純●いしかわ・かすみ

1993年2月23日生まれ、山口県出身。四天王寺高卒、全農所属。13歳の時に全日本選手権でベスト4入り、平成22年度全日本選手権で初優勝。平成25年度・26年度の同大会で2連覇して、通算3度目の優勝を果たし、26年度は女子では54年ぶりの三冠王となった。12年ロンドン五輪では団体銀メダルを獲得し、シングルスでも日本人初の準決勝進出を果たした。2014年ITTFワールドツアー・グランドファイナル優勝。世界ランキング5位(15年4月現在)

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