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全日本卓球2021

「何より、卓球が楽しいんです」。全日本初出場の27歳・松本知也が日本リーガーから金星

 日本一をかけた国内最大のビッグゲームであると同時に、今大会でいろいろと注目を集めた岩城禎(緑の館 奈良)をはじめ、卓球に魅了された男たちが追い求める憧れの大舞台でもある全日本。出場選手を見ると、大学生に高校生、さらには中学生と、若者が大多数だが、そんな中で宮城代表の松本知也は27歳にして全日本初出場。これまでジュニアやダブルスにも出場経験がなく、社会人となってからも練習を続け、念願の全日本の舞台に立った。

 福島県出身の松本は、福島高専時代には高校選抜の2部(シングルス)に出場。その後、新潟大を経て、宮城で就職。現在は仙台卓球センターに所属している。松本の1回戦の相手は日本体育大卒で、全日学では上田仁(現・岡山リベッツ)にも勝利した定松裕成(鹿児島相互信用金庫)だったが、棄権となり不戦勝。「ずっと動画を見て対策していた」という松本、その知らせを聞いたのは、大阪に向かう直前だった。

 いきなり2回戦からの登場となった松本が対戦するのは、水谷良紀(JR北海道)。高校時代に2人は対戦しており、「向こうは覚えてないと思いますが、ダブルスでボコボコにされました」(松本)とのこと。その水谷に対して「挑戦者の気持ちで臨む。でも、勝つつもりで準備していた」という松本、なんと全日本初出場にして日本リーガーを下すジャイアントキリングを成し遂げた。

初戦となった2回戦でJR北海道・水谷から金星

 

 松本のプレーは、まさにオールラウンド。前陣での打点の早いフォアドライブ連打、カウンターもあれば、緩急をつけたバックのプッシュやドライブに、いなすようなブロックでもミスを誘う。さらにはカットも駆使し、会場内でも目を引いていた。

 松本は、卓球を始めてから長くカットマンとしてプレー。父がカットマンだった影響でサウスポーながらカットマンとして卓球を始めた。中学まではほぼ9割はカットで戦っており、高校で「攻撃型になれ」と監督に指示されたが、戦型変更への不安もあり、カットのまま攻撃を増やすようになる。その後、徐々に攻撃の割合を増やし、大学ではカット5割・攻撃5割ほどに。以降もスタイルはどんどん攻撃に向かい、攻撃を中心にしつつ、レシーブの時にカットを使うようになり、現在は「攻撃9割・カット1割」だという。

サービスからの速攻に、

巧みなブロック、

前陣でのカウンター連打もあり、

カットも織り交ぜる独特のスタイルの松本

 

 そんな独特のプレースタイルを支える用具を紹介すると、ラケットは知人を通じて製作してもらったコクタク製の特注ラケット。上板に桧を使用した3枚合板のカットラケットで、カットでも攻撃でもボールをつかんでくれるという。フォアのラバーは攻撃の威力を重視して『テナジー05ハード』の特厚。バックはカットやツッツキの安定感を求めて『テナジー05』の中を使用している。

 

 学生時代とは違い、仕事をしながら時間を作り出しての練習。平日は20時くらいに仕事が終わってから仙台卓球センターで1時間ほど練習し、土日も練習に励む。以前はサービスから3球目などの練習が多かったというが、現在、毎回行うのが切り替えの練習。「今はラリー重視の卓球が中心になっていて、そこに対応するために、ここ3年くらいは切り替えの練習をずっと取り入れています。カットはずっとやっていたので、練習はしないでも、ある程度はできますね」(松本)

 社会人プレーヤーとして、限られた時間で卓球に向き合う松本だが、「今はすごく卓球が楽しい」と語る。そう思わせてくれたのは、新潟大時代の仲間たち。「高校までは卓球をやらされている感じもあって、厳しい練習も多かった。でも、新潟大には卓球が好きなメンバーがたくさんいて、それが自分にとっての卓球の見方が変えてくれた。特に新潟大の後輩で、この全日本にも出場している須郷(航央・青森市役所)は本当に卓球が大好きで、彼にはすごく影響を受けました」

 

 昨年は新型コロナウイルスの影響により、2、3カ月練習ができない時期もあった。ただ、その時期も、自分にとって卓球がどれほど大事なものか教えてくれたと松本は言う。「練習できない時期は、トップ選手の試合や練習以外の動画や、ボール遊びの動画を見て、自分も挑戦したりしていました。そういう動画を見ていると、トップ選手もみんな卓球が好きなんだなと感じました。練習ができるようになって、久しぶりにボールを打ったら、単純に楽しかったですね。やっぱり、自分には卓球しかないなと改めて思いました。気がつくと、いつも卓球のことばかり考えているんです」

 

 試合のほうは、3回戦で駒澤大のエース・渡井丈人士に敗れた。話の最後に、「4回戦まで行くつもりで、宿も飛行機も取っていたんですけど…」と語った松本。初出場で初勝利をあげた今大会に続き、来年以降も全日本に出たいと意気込む。

 「スポーツ(sports)」の語源は、ラテン語で楽しむ、遊ぶを意味する「デポルターレ(deportare)」だと言われている。卓球との向き合い方、卓球の捉え方は人それぞれで、だからこそおもしろい。松本はこれからも、「楽しむ」ことを大切に、卓球と生きていく。

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