Tリーグの木下マイスター東京と、木下アビエル神奈川の
下部組織として2021年4月に開校した
「木下卓球アカデミー」。
日本卓球協会のNT、JNTスタッフだった
倉嶋洋介、渡邊隆司を招聘し、本格的な活動が始まっている。
選手に対して環境を整え、指導者とスタッフが揃いつつある。
その先には、世界選手権やオリンピックでの活躍という
大いなる目標がある。
神奈川県川崎市にある木下グループが運営をしている医療介護複合施設、「リバティスクエア」の一角に木下グループの卓球部がある。
Tリーグでは男子の木下マイスター東京、女子の木下アビエル神奈川という男女のチームを持つ。その木下グループ卓球部には第一線を退いたものの水谷隼、世界ランキング5位の張本智和、全日本チャンピオンの及川瑞基などのトップ選手が所属するが、その下部組織として昨年4月から「木下卓球アカデミー」がスタートした。
もともとTリーグのチームにはジュニア育成が義務付けられている。その中でも木下卓球アカデミー(以下アカデミー)の組織作りは一線を画する規模と陣容になっている。
アカデミーは、「トップアスリートコース」と「ジュニアコース」に分かれており、「トップアスリートコース」は将来世界で活躍する選手の育成を目指す。一般公募ではなく、アカデミーが設定する基準をクリアした選手たちがセレクションやスカウティングによって選び抜かれて、アカデミー生になることができる。
「リバティスクエア」の第1練習場はトップチームが使用し、第2練習場は「ジュニアコース」、第3練習場は「トップアスリートコース」が主に使用する。
2021年4月に開校した木下卓球アカデミーの一期生が張本美和だ。
「新しいアカデミーは、私にとって前よりも卓球に専念できるすごく良い環境です。夕方まで学校に行っていますが、毎日5時間は練習できます。最近は練習だけでなく、アカデミーでの食事や体力作りが卓球の成績につながっていると感じています。アカデミーの一期生として、自分がしっかり頑張って、自分のためにもチームのためにも土台を作っていきたい。今後、世界でのジュニア大会、国内大会でしっかり勝っていくことが目標です。試合では何が起こるかわからないので、メンタルも鍛えながら、いろいろ対応できる力を木下アカデミーで身につけていきます」と意気込みを語る張本美和は、世界ユース選手権で活躍するなど、すでに国際舞台でその実力を示している。
木下卓球アカデミーのスタッフとして2021年1月にゼネラルマネージャー(GM)に招聘された渡邊隆司は、アカデミー全体の管理、指導を行う。長く日本卓球協会でJOCエリートアカデミー男子監督、JNT(ジュニアナショナルチーム)女子監督を務めてきた経験を持っている。
「2021年2月くらいからスカウティングも始めましたが、コロナ禍で1年間ほぼ大会がなかったので、その前年の全日本ホカバ、東アジアホープス国内選考会の動画サイトを見ながら参考にさせてもらいました。今後は強化合宿という形で練習会を1~2カ月に一度はやっていきたいと思っています。2022年春には中学1年の選手が6人入校する予定なので、アカデミー生は7人になります。将来的には1人のコーチが2、3人を担当することが理想です」(渡邊)。
アカデミーの選手は「リバティスクエア」の施設の中で生活しながら、星槎中に通う。環境も違い、やり方も違うとは言え、有望な小学生をスカウティングするという意味では、JOCエリートアカデミーや中高一貫指導の強豪校と争うことにもなる。
「JOCエリートアカデミーの開設から9年間運営に携わり、様々な経験をしてきました。そこで培った経験を活かしつつ、、民間のクラブとしてスピード感を持ってミスを恐れずにトライ、改善を繰り返し取り組んでいきたい。スカウティングなどでJOCエリートアカデミーや他の強豪校とバッティングすることはあると思いますが、敵対するのではなく、ライバルとして前向きに捉え、日本全体のレベルアップを見据え、切磋琢磨しながらやっていきたい」(渡邊)。
また昨年10月からは、木下グループ卓球部の総監督に元ナショナルチーム男子監督の倉嶋洋介を迎えた。「組織としては、最終決定者として木下直哉代表(株式会社木下グループ代表取締役社長)もおられるし、会社のほうの大きなバックアップもあります。私たちは現場での組織作り、指導に専念していくことになります。今までナショナルチームでやってきたノウハウを木下アカデミーで生かしていきたい。もちろんゼロから作っていく大変さはありますが、同時にそれが自分自身のやりがいにもなっています」(倉嶋総監督)。
Tリーグのトップチームはプロ集団である。選手の入れ替わりも激しい。選手たちはそのシーズンの成績によって、チームを移り、新たに入ってくる選手もいる。しかし、ジュニアを育成する組織は、ひとつずつ積み重ねながらゼロの状態からの構築が必要となる。その中で、渡邊GMや倉嶋総監督のような、協会の強化部門に関わってきた人の知見がアカデミーで生かされることになる。
加えて田中礼人(ストレングス&コンディショニングディレクター)、岡澤祥訓(メンタルトレーナー)、薛云超(スパーリングパートナー)という協会のNTをサポートしていた専門家が木下卓球アカデミーのスタッフとして名前を連ねている。
だが、この木下卓球アカデミーは日本卓球協会のJOCエリートアカデミーのコピーではない。民間企業ならではのスピード感を持ち、アカデミーがスタートして1年足らずだが、着々と世界基準の環境と組織が作られている。
「トップアスリートコース」は世界での経験を活かした指導とマネジメントで、「個性」「考える力」「競争力」などをキーワードに世界に通用するトップアスリートを育成していく体制を整えつつある。ポテンシャルのある、将来性のある選手が日本には埋もれており、そのダイヤモンドの原石を木下卓球アカデミーが発掘し、磨いていくことが可能になった。
「今後はアカデミーの選手とトップチームがつながり、アカデミーの選手が強くなり、Tリーグに出る。Tリーグ選手側でも練習相手として選手を必要としている時に、アカデミーの選手が相手をするなど、アカデミー選手とTリーグ選手の両者がプラスになるような協力関係を構築できればよい」(渡邊)。
アカデミーでは技術を教えるだけではない。アカデミー生は施設内で共同生活を通して自立と自律を身につけていく。また、世界に飛び出すための体力作りも重要な課題であり、ストレングス&コンディショニング(S&C)ディレクターとしてNTをサポートしている田中礼人と守屋方貴がストレングス&コンディショニングコーチとして選手たちのフィジカルをサポートしている。
「張本美和選手を見ていても、足も腕も左右差が出てしまうので、バランスを取りながら鍛える必要があると思います。鬼ごっこなどの遊びを卓球のトレーニングに取り入れています。アジリティ(敏捷性)を高め、相手の動きを見ながら自分もすばやく動くということを覚えることで、卓球にもつながっていく。
また、S&Cの目的は卓球独特の反復練習に耐えられる体を作ることと、パフォーマンスの向上です。学年、年齢に合ったトレーニングは30種類以上ありますが、個人差のばらつきがあるので適切にメニューを使いながらトレーニング効果を上げて、最高のパフォーマンスを作っていきたいです」(守屋)。
ツイート