ループドライブを相手の台上でツーバウンドさせると言ったら「何を言ってんだ」と思うだろう。
そもそもドライブ打法というのは、ボールに上回転をかけて打球する打ち方だ。このドライブにさらに強烈な回転をかけてループ(輪)状の弧線を描きながら飛んでいくドライブを「ループドライブ」と言う。
古くは1950年代に日本の卓球が世界選手権でデビューして、一枚ラバー(スポンジなしの表ラバー)主流の時代に、「特殊ラバー」と言われたスポンジや裏ラバー、裏ソフトラバーで卓球用具の革命の旗を振りかざし、世界を席巻。特に、裏ソフトでの強烈なループドライブでヨーロッパの一枚ラバーのカットマンを次々となぎ倒した。
そのループドライブは1970年代からヨーロッパでも主流となり、さらに強烈なドライブとして、「パワードライブ」「スピードドライブ」「カウンタードライブ」という言葉で表現され、現代卓球では決定打になった。
卓球王国2022年11月号(9月21日発売)で紹介されるのは、高木和卓の「浅ドラ」だ。ドイツで腕を磨いた若手も34歳になった。かつて日本代表として活躍し、世界チャンピオン、五輪チャンピオンだった張継科(中国)を破った男だ。
ライジングのバックカウンタードライブが得意だった選手も年を経て、円熟の境地を迎えている。
今号では「匠の技」として、相手コートに浅く入り、バウンドを低くするドライブを紹介している。
卓球には「ハーフロング」という言葉がある。台上でツーバウンドするボールはサービスであればショートサービス、レシーブであればストップレシーブになるが、ツーバウンドするかしないかの長さのボールを「ハーフロング」と言う。
1980年代にスウェーデンが「意識的に」この「ハーフロング」のサービスを使うようになった。「ショート」か「ロング」という選択肢に「ハーフロング」のサービスという新たな選択肢を加え、その後、世界の卓球界の中で戦術に用いられるようになった。つまり、ストップレシーブをするにしては長めで、強く打とうと思っても打てないのがハーフロングだ。
高木和はドイツでプレーしている時代に、チームメイトのロスコフ(元五輪メダリスト)やティモ・ボルがハーフロングのサービスやレシーブを打球点を落として、そこからも思い切り回転をかけたループドライブを試合で使っていたのを体感した。
それを参考にしてハーフロングのツッツキをループドライブをしていた高木和だが、現代卓球では相手にカウンターで狙われてしまう。そこで考え抜いて考案したのが、「相手にカウンターされないループドライブ」だった。
大きな弧を描くループドライブでは相手にカウンターされてしまう。そこで弧を小さくして、相手コートに浅く落とすことをやってみた。通常、ループドライブは安定させるために弧を大きくして相手コートに深く入れるものだが、高木和は逆だ。弧を小さく浅くして、打球点は低いのだが、そこから低めに入れる。もはやループドライブとは言えない。
「練習では狙えば相手の台上でツーバウンドさせることもできる。試合でツーバウンドすることもある。そうなると、相手はカウンターしようとするけど、バウンドが低く浅いのでカウンターができない」(高木和)
遊び感覚で台の横から相手コートに滑らすように入れてく「横入れ」ドライブは見たことがあるだろう。
しかし、台の下から打つループドライブを相手コートでツーバウンドさせる「浅ドラ」はあまり見たことがない。「ハーフロングのツーバウンドするかしないかのツッツキ(ストップ)を一発の強いドライブで持っていくのは難しい。とはいえ、試合ではこういうボールをどう攻めるかが勝負どころでの重要なポイントになります」(高木和)
さあ、あなたも「浅ドラ」に挑戦してみよう。回転をかけながらも繊細なボールタッチがないと「浅ドラ」はできない。これができたらあなたのボールタッチは「匠級」と言える。
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