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東京五輪

「劇的」でないメダル確定。石川佳純の人差し指に見た日本女子の進化

女子団体準決勝の香港戦、1番ダブルス。石川佳純の右手の人差し指が、平野美宇に向かってすっと伸びた。「それだよ、それ!」という感じだろうか。3ゲーム目の8−7、李皓晴のフォア前へのストップレシーブを平野が相手のフォア前へダブルストップ。蘇慧音のミスを誘った場面だ。

「読みがピッタリ合ったんです。『相手のストップがフォア前に来るから、もう一度ストップして』という自分の読みがあって、美宇ちゃんがそのとおりにやってくれた。それで『ナイス!』って(笑)」(石川)

日本女子チームが、歴史的な女子団体の銀メダルを獲得した2012年ロンドン五輪や、前回のリオ五輪でも、こんなシーンは一度も目にしなかった。百戦錬磨の石川だからこそ出たアクションかもしれないが、それくらい相手を呑んでいた。今大会の日本女子チームの強さは、格が違う。

思い描いたシナリオどおりの平野のダブルストップに、石川は思わずこのリアクション

カミソリドライブの鄭怡静を擁するチャイニーズタイペイも、鉄壁バックハンドの杜凱琹を軸に勢いがある香港も、日本から1ゲームを奪うのがやっと。キャプテンの石川は「毎回、本当にすごく苦しい試合になると思って準備している」と準決勝後に語っているし、取材している私も時々「最悪のシナリオ」が頭をよぎる。しかし、目の前の「3人娘」は、そのシナリオを鮮やかに切り裂いていく。

それにしても、「こんなにあっさり勝っていいの?」というのが正直な思いだ。3番平野は勝利の瞬間、左手の拳を小さく固め、控えめな笑顔をベンチに送った。日本女子、2大会ぶりの決勝進出のサインだ。今夜の試合のために増員され、決定的瞬間を待ち構えていた数十人のカメラマンが、いささか肩透かしを食らった。

平野の小さなガッツポーズで、日本女子の団体準決勝は終わりを告げた

しかし、五輪初出場の彼女にとっては、見えないプレッシャーとの戦いだったに違いない。ベンチに戻り、馬場美香監督や石川、伊藤に声をかけられ、ようやく「美宇スマイル」がのぞいた。とても眩しかった。

「卓球界は長年、小さい頃から選手の育成を進めて、10年先、20年先を見据えて強化をしてきた。それをずっと見てきましたし、こういう結果が出て銀メダル以上が確定できたのは、卓球界全体の強化のおかげだと思っています」。馬場監督は準決勝後に語っている。

馬場監督が選手として出場した88年ソウル、92年バルセロナ五輪の頃は、競技を問わず選手たちが「楽しみたい」という言葉を発することすらはばかられた時代だ。馬場監督の目から見れば、少々のジェネレーションギャップとともに、選手たちのプレーはこの上なく頼もしく映るだろう。連日、睡眠時間は3時間あるかどうかという馬場監督。試合のない明日も、オーダーやアドバイスが頭を駆け巡るはず。でも、あと2日だ。

「あなたならできる」と平野を励まし続けてきた馬場監督。その右手が試合後、そっと平野の肩に添えられた

「まずは自分を信じること、そして仲間を信じること、決勝の舞台を楽しむこと。そして最高のプレーをしたいと思います」キャプテン石川は、プレスの囲み会見を最高の言葉で締めくくった。平野美宇は「金メダルを狙ってやってきた。ここからがスタートラインだと思ってやっていきたい」と頼もしい言葉を残した。

心配性な卓球ファンと、ひとりの卓球雑誌の記者が思うより、日本女子チームは遥かに強い、2番で確実に白星を重ねる伊藤も、随所で勝負師としての勘を見せつけている。

明後日の決勝には、九分九厘、中国が勝ち上がってくるだろう。1年遅れの最強決定戦をコートサイドで、1球たりとも見逃さずに見届けたい。

8月5日の19時半から、女子団体決勝を戦う日本女子チーム。混合複に続く、歴史的な勝利を期待したい

東京五輪速報

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