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東京五輪卓球

互いのリスペクトがもたらした銅メダル。そして水谷隼の「ゾーン」

日本男子が韓国を下し、銅メダル獲得で有終の美を飾った。日本チームの東京五輪が終わった。長い長い13日間だった。最後に選手たちの最高の笑顔で締めくくることができた。

韓国戦の1番ダブルス、「絶対的」と言っていいくらい不利だった水谷隼/丹羽孝希が、1ゲーム目から1本取るごとに声を出す。特に丹羽のガッツは、「シングルスの時の10倍くらいガッツポーズが出ていた。10年以上彼とプレーしていますけど、あんなにガッツポーズを出しているのを見たのは初めて」と水谷が語るほど。バックサイドに詰められながらもバックハンドで反撃し、果敢に回り込んで攻めた。

1本取るごとにガッツポーズを決めて戦った水谷/丹羽ペア

韓国は前回のリオ五輪で、史上初のメダルゼロに終わり、今大会もここまでメダルなし。この男子団体銅メダル決定戦が、メダルへの最後のチャンスだった。関係者席では金擇洙総監督が何度も檄を飛ばし、そのプレッシャーもあってか、鄭栄植/李尚洙の表情は明らかに硬かった。この1番ダブルスでの日本の勝利で、試合の大勢が決まった。

そのダブルスでの勝利後、ベンチでこんなシーンがあった。2番に出場する張本がベンチに戻ってきた時、勝利を決めた水谷と丹羽が、張本に笑顔でガッツポーズ。張本が満面の笑顔でハイタッチを交わした。

何ともほっこりした水谷と丹羽のシンクロガッツポーズ&笑顔

「ダブルスはあんなに不利と言われても、あんなに良い試合をしてくれたのに、自分がちょっと調子悪いだけで、エース対決に負けるわけにはいかない」(張本)。先輩ふたりのダブルスに触発され、張本は大いに燃えた。予想外のプレーで相手のリズムを狂わす難敵・張禹珍に、つけ入るスキを与えず。「水谷さんと丹羽さんが良いプレーをしてくれたからぼくも良いプレーができたし、おふたりには感謝しかないです」。張本は会見で穏やかに語っている。

チームの勝利の瞬間、大きくガッツポーズの水谷に抱きつく張本。「感謝の思いで駆け出していた」と語った

卓球の団体戦は、結局はシングルスとダブルスの集合体。結果を出すことが最大のチームワークだ。しかし、韓国戦の日本チームには、それぞれに年齢差がありながら互いのプレーを認め、リスペクトし合う理想的なチームワークができあがっていた。「ダブルスを取れば、必ず張本が2点取ってくれると信じていた。張本はエースとして相応しいプレーをしてくれたし、彼なら十分に今の日本を引っ張ってくれると思います」。……泣かせるセリフだ。本当に泣きそうだった。

3番丹羽は鄭栄植に敗れたが、チームの雰囲気が悪くなったり、試合の流れが韓国に傾くことはなかった。そして4番水谷の圧巻のプレー。特に2ゲーム目以降、得点しても小さく拳を固めるだけで、決して声は出さない。試合後の会見で、「ものすごく集中してゾーンに入っていた。周りの声が完全にシャットアウトされていた」と語っている。恐ろしく静かで、恐ろしく集中していた。

張禹珍のチキータやストップも、次々にカウンターで狙い打った水谷

水谷は張禹珍に対し、サービス・レシーブで完全に優位に立っていた。「五輪だけは特別な舞台。どの選手もサービスが『入れ入れ』『当て当て』になる」。別冊『水谷隼の大サービス』で、彼はそう語っているが、この試合についてはサービスの精度は抜群に高かったのではないか。

2ゲーム目の6-3という重要な場面で、張禹珍のネットミスを誘った下回転サービスなど、ここぞの場面で見せたサービス力はさすが。レシーブからの展開もほぼ完璧で、攻め込んではカウンターで打ち抜かれる張禹珍は、まるでお釈迦様の手のひらの上で転がされているかのようだった。そこにいたのは仏ではなく、卓球の鬼、勝負の鬼だったけれど。

「東京五輪はぼくにとって特別な大会、最後になる大会だと思ってずっとやってきた。これが代表として最後の試合になるという、その気持ちは変わらない」。会見でそう語った水谷だが、こんなプレーを見せられたら……。何はともあれ、今は未来の話より、ゆっくり休んでほしい。銅メダルおめでとう、日本男子チーム!

メダル獲得を決め、最高の笑顔を見せた日本男子

前回のリオ五輪団体銀メダルのメンバー、吉村真晴が水谷と涙の抱擁

石川、平野、伊藤の日本女子3人をはじめ、日本チーム総出で熱戦を見守り、応援した

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