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「型がない」のが強み。初のインハイ表彰台へ導いた、静岡学園・寺島監督の指導哲学

 今年のインターハイ学校対抗では、準々決勝で遊学館高(石川)に勝利し、初めて全国大会で入賞を果たした静岡学園高。ここ数年の活躍は目覚ましいものがあり、今、日本で一番勢いのある学校と言っても良いだろう。卓球王国2022年1月号(12月20日発売)の『潜入ルポDX』では、静岡学園の練習にお邪魔し、躍進を遂げた理由を探った。

 取材では静岡学園高を率いて17年目になる寺島大祐監督に練習で重視するポイントや独自の取り組みについて話を伺ったが、その指導観はどのように築かれたのか。ここでは本誌では紹介できなかった寺島監督のバックグラウンドに触れていく。

静岡学園・寺島大祐監督(左)

 

●指導者としてのベースは「普通の学校」でインハイ出場を果たした経験

 静岡学園高卓球部は1985年にインターハイ学校対抗に初出場。以降はインターハイから遠ざかっていたが2009年に2度目のインターハイ学校対抗へ出場を果たした。そこからインハイ常連校となり、2016年度の高校選抜で初の全国ベスト8進出、2019年にはインハイ学校対抗で初めて準々決勝へと進むと、今年、念願の全国大会の表彰台へ上った。

 静岡学園高躍進のキーマンは2005年から指揮を執る寺島大祐監督だ。静岡県御殿場市出身の寺島監督は中学から卓球を始め、沼津東高では高校3年時にインターハイシングルスに出場。しかし、通っていた中学、高校とも強豪校というわけではなく、いわば「普通の学校」。現在のように簡単にネットで動画を見ることも、情報を得られる時代でもなかった。

 その中で寺島少年が考えたのは「練習相手、強い選手がいるところに自分が行けば良い」ということ。顧問の先生の理解、熱心な協力もあり、高校時代は他の高校や大人のクラブチームの練習に参加して実力をつけ、たくさんの人からアドバイスをもらいながらインターハイ出場をつかんだ。「今考えると、おかしなことしてましたね」と振り返るが、時には2時間かけて神奈川まで練習に出向いていたという。

 また、寺島監督が通っていた沼津東高は静岡県内でも有数の進学校だった。自分自身で強くなれる環境を切り拓き、文武両道でインターハイに出場するまでの取り組みをテーマにして、AC入試(主体的かつ継続的な取り組みから問題解決能力を評価し、選抜する自己推薦入試)で筑波大に合格。在学中はインカレで3位入賞も果たしたが、筑波大はスポーツ推薦入学した選手と一般入試で入学した選手が一緒に練習する、他の強豪校とは違った環境だった。大学で多様な価値観に触れた経験は、幅広いレベル、さらに男女が混じって練習する、現在の静岡学園での指導にも役立っているという。

2002年インカレ3位入賞時。前列左から3人目が寺島監督

 

 こうして様々な場所で、様々な人と練習し、強くなる術を貪欲に求めて過ごした選手時代の経験が、寺島監督の指導者としての考え方にもつながる。

 「指導者の中には、自分以外の人間が選手にアドバイスをするのを嫌う人もいると思います。選手として大きな実績があったり、自分の指導に本当に自信があれば『オレの言うことを聞いておけば大丈夫』となるんでしょうけど、私はそういうわけではないので。だからいつも『ベストの方法は何なのか』ということを考えて、その時々でチームの状況を見ながら、必要なものや新しいものを取り入れるようにしています。

 基本メニューがないのもそうですし、頻繁に外部から指導者や選手を招いているのもそのひとつ。私にできないことや知らないことがあるのなら、それをできる方、知っている方に教えてもらえば良い。優れているものを持った外部の方々が協力してくれていることは大きいですね」

 

 また、選手として指導者に強制されるような環境でプレーした経験がないからこそ、寺島監督は自らを「卓球や指導について、あまり『型』みたいなものがない」と語る。そして、それこそが「変わり続ける」「チャレンジする」という静岡学園のカラーを生み出している。

 「私自身、性格的にも『ピンチがチャンス』と思うタイプですし、新しいもの好きなところもある。ウチは伝統校ではないので、ひとつのやり方に固執せず、失敗しながらでもどんどんチャレンジしていける。そのやり方が静学には合っているように感じます」(寺島監督)

 成功体験は、時に我が身を縛り付ける。結果が出たからこそ、いつしかそのやり方に安心や執着を覚え、それが退歩の始まりだとも気づかず、変わることに恐怖する。だが、静岡学園にそんな考えはない。成功体験にとらわれることなく、常に新しい取り組みにチャレンジし続けるのが「静学の流儀」。日々アップデートされていく練習を経て、次はどんな活躍を見せてくれるのだろうか。

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