卓球王国 2024年11月21日 発売
バックナンバー 定期購読のお申し込み
コラム

【卓球レディース】嗚呼!卓球母その5/卓球父とは子供の影響で卓球を始めて子供より沼るミイラ

卓球歴3ヵ月で気分と用具は馬龍に進化した卓球父

【エッセイ=西村友紀子】

 

ホカバを目指す卓球キッズの親御さんのことを、私は卓球母(卓球父)と呼んでいます。卓球母は一般のママとは似て非なる感覚を持つ生き物。そのぶっ飛んだ行動を卓球母のひとりである私の体験を通してご紹介します。

 

 私は高校生スタートの卓球レディース。学生時代、小学生スタートのライバルに勝てなかった悔しさから、我が子が小学生になると卓球教室へ通わせることに。本人のやる気とともに練習回数が増えると、私は子供のダメなところが目に付くようになりました。練習中の子供に「もっと集中しなさい!」とダメ出しをすることも。すると子供がとても嫌がるので、卓球まで嫌いになられたらかなわないと子供の練習場へ行くことを控えました。毎日の送迎も疲れたので、迎えは仕事帰りの夫に任せたのです。そんな矢先、夫が突然「俺も卓球やる」と言い出し、ズッコケました。

 夫と言えば学生時代、運動とは無縁の帰宅部。実家に結婚の挨拶に来た時、うちの母に「夫婦共通の趣味を持ってくださいね!」と言われたのに、右から左に聞き流したムーディー野郎。唯一の趣味である漫画を2DKの新居に2000冊も持ち込み、結婚してから今日まで家族との会話もろくにせず、ひたすら読書(漫画限定)に浸ってきた男。なのに、今さら自分も「卓球やる」とはこれいかに?

 「子供が卓球してる間、待ってるだけも辛いから」と夫。なるほど、それならばと、私は家にあった中古のラケットを渡しました。夫は意外と本気モードで、マイラケットを手にした翌日からすぐに練習開始。しかし、伸び盛りの10代をムダに過ごしたせいか、卓球のセンスは限りなくゼロに近い。これはもしかすると3ヵ月も続かないかもなぁ。夫がロビングのように下から持ち上げるフォームでフォアハンドを振るたびに、そう思いました。

 そんな私の予測とは裏腹に、夫はどんどん卓球にハマり、家に帰ると卓球YouTubeを毎晩チェックするように。卓球場で人を見かけては声をかけ、平日は2時間、週末は6時間も練習。やがて上達しないのをラバーのせいにして、用具にもこだわるようになりました。

 ある日、私は使用済みの卓球用具を収納している箱を開けると、中から大量の中古ラバーが出てきました。どれもまだ使える新しさ。夫には息ができるギリギリのお小遣いしか渡してないのに、どこからラバー代を捻出しているのか? 夫にたずねると、「漫画を売った」と意外な答えがポロリ。私はあわてて本棚を見にいくと、2000冊の漫画コーナーが「ONE PIECE」と「三国志」だけになっていました。

 新居へ移る際、宅配業者さんの腰を潰してまで運んでもらった何百キロもの漫画、同じく宅配業者さんに「漫画貸してもらえますか?」と懇願されたセレクトセンスが光る漫画、家族サービスよりも優先してきた漫画を売ってまで欲しいラバーとはなんだったのか?

 新古品のままお蔵入りとなったラバー群を見ると、キョウヒョウネオ3にキョヒョウプロ……など中国の粘着系で、どれも馬龍が使ってこそ価値のあるラバーばかり。「マークⅤがいいよ」とアドバイスしても馬の耳に念仏。夫は本気で上達する気があるのでしょうか?

 そんな疑問を抱えていたある日、夫と一緒に子供を練習場へ迎えに行くと、帰りの車の中で夫は息子にダメ出しをし始めました。「打つのが早い。もっと待った方がいい」などコンコンと。それはさながら同じチームの許昕にアドバイスを送る馬龍。息子は「うん、うん」とうなずきながら素直に話を聞いています。

 私はあわてて息子にたずねました。「お母さんがダメ出ししたら嫌がるのに、お父さんの話話は嫌じゃないの?」と。すると息子は首を縦にふりました。「なんで??? お母さんの方がお父さんより卓球歴は長いよ。お母さんの言うことも聞いてよ」と言うと、今度は首を横に振るのです。なんでなんでとたずねると。

 

息子は「お父さんは聞き流しても怒らへんから」とひと言。

 

Chara cha cha chara cha―――( ;∀;)

 

 いやはや。息子にムーディー野郎のDNAが受け継がれていたとは。ふいにやってきた子供の正直な発言は、夫も右から左に受け流せなかったようで、その後の車内は静かでした。夫がその後、バックを異質表に替えて子供を翻弄するようになったのはそのせいでしょうか?

 

 

 

関連する記事