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コラム

【卓球レディース】嗚呼!卓球母その13/卓球母とは子供にプロの名試合をみせたい卓球動画セールスレディー

母の愛が詰まった新聞紙の切り抜きに涙する卓球母

 

 

【エッセイ=西村友紀子】

 

ホカバを目指す卓球キッズの親御さんのことを、私は卓球母(たっきゅうぼ)と呼んでいます。卓球母は一般のママとは似て非なる感覚を持つ生き物。そのぶっ飛んだ行動を卓球母のひとりである私の体験を通してご紹介します。

 

 

私は高校生スタートの卓球レディース。学生時代、小学生スタートのライバルに勝てなかった悔しさから、我が子が小学生になると卓球教室へ週に3回以上も通わせることに。そんなある日、子供に「僕は卓球の動画をみません」と宣言されてズッゴケました。

こちとら卓球動画をみるのが大好きな卓球母なのに。あわわ。夜な夜なSNSでプロの試合や、YouTuberさんの技術解説をみては、タメになるコンテンツを頭の中にリストアップ。そして次の日の晩、子供が練習から帰ってくるなり、「いいのみつけたよ。みてみて!」と大はしゃぎでプロの試合の名シーンなどを見せようとする。その恩着せがましい行為に嫌気がさしたのでしょうね。

子は親の背中をみて育つといいますが、そういえば私も同じ被害にあったことがありました。今から云十年前、私が学生の頃の話。部活を終えて疲れて家に帰ると、母が玄関で待ち構えていて、「いいこと書いてあったよ。読んで読んで!」と大はしゃぎで新聞を見せてくる。母のレコメンドは、教訓めいた読者投稿や社説など、読んだら頭が痛くなるような欄ばかり。読む気ゼロの私は「はい、はい」と受け流していましたが、ペンカットが得意な元卓球選手の母はそこから粘りをみせました。

私が晩御飯を食べていると、母がおすすめの社説を赤鉛筆で囲み、目の前に置く。それでも読まないと、その欄を切り取って私のベッドの上に置く。それでも読まないと、その切り抜きを封筒に入れて、翌日の登校前に「学校で読みなさい」と渡してくる。

流してるのに、どんだけ一本一本返してくるねん!!!

はっきり言わないと終わらないと思った私は、母に「うちは新聞を読みません」と宣言。すると「テレビの番組欄はみてるのに?」と鋭いツッコミを入れられて……。

 

IZIDEMOYOMANZO(-_-メ)

 

頑固者の私はそれから10年以上、嫁ぐまで、母から渡される切り抜きを読みませんでした。それなのに母は、卓球で身につけた“あきらめない力”を発揮せんとばかりに切り抜き続け、封筒は100万円の札束が入ってるんじゃないかと兄を期待させるほど膨らんで。また膨らんで、膨らんで。私の部屋の押入れに何千万円相当の厚みとなって保管されることになりました。もちろん、嫁入り道具と一緒に新居に持ち込むことはありませんでしたが。

それからさらに月日が流れ、私はWEBメディア「卓球レディース」を立ち上げブログを掲載することにしました。ブログ(エッセイ)なんて書くのは初めて。読者に文章の終わり、最後の「。」まで読んでほしいけど、どうしたらいいのだろう? そもそも活字嫌いの自分が最後まで読んだエッセイはあったっけ? と回想していると、京都新聞で連載されていた「かおり風景」を思い出しました。香りをテーマに感動のエピソードが綴られた読者寄稿のエッセイ。番組表をみようと新聞を開いた時に、これだけは目にとまって、ある作品を最後まで読んでしまった。香りは目に見えないのに、言葉で表現された香りに嗅覚が反応してしまったからです。

もう一度読んでみたい。私は実家に帰り、押入れの中にある封筒の束を探しました。もしかしたら、母が切り抜いていたかもしれない。するとありました! 「かおり風景」の切り抜きが! 100万円の札束の厚みとなって封筒に入っていたのです。

 

ひとつひとつ、エッセイを読むと、どれも涙がちょちょぎれる香り体験談ばかり。母はこの感動を娘と共有したくて切り抜き続けたんだ。目に浮かび心に響くエッセイを。私が唸ったらドヤ顔したい一心で。バカ娘とわかりながら。でも、時はすでに遅し。母は認知症で私のことすら忘れています。あの時、素直にこの切り抜きを読んでいたら、母はどれだけ喜んだだろう。

赤茶けた古新聞の切り抜きからは、母のいない実家の香りがしました。西日に焼かれるがままの畳の香りがふんわりと。

 

息子よ、いま一緒に卓球動画をみないと、このさき後悔することになるぜ。

 

 

 

 

 

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