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コラム

【卓球レディース】嗚呼!卓球母その16/卓球母とは子どもたちの“あと1本”に祈りを捧げるマリア

卓球母でいられる時間がわずかであることに気づいた卓球母

 

【エッセイ=西村友紀子】

 

ホカバを目指す卓球キッズの親御さんのことを、私は卓球母(たっきゅうぼ)と呼んでいます。卓球母は一般のママとは似て非なる感覚を持つ生き物。そのぶっ飛んだ行動を卓球母のひとりである私の体験を通してご紹介します。

 

 

私は高校生スタートの卓球レディース。学生時代、小学生スタートのライバルに勝てなかった悔しさから、我が子が小学生になると卓球教室へ週に3回以上も通わせることに。そんなある日、いつものように子どもの大会へ応援に行き、これが小学生最後の公式戦だと気づいてズッコケました。

えっ、もう卒業なの? 小学校は6年制のはず。365×6日が過ぎ去ろうとしているの??? だとしたら、ひかりをふって、のぞみに乗り換えた時以来の衝撃。一瞬やん。時の流れに身をまかせ、卓球色に染められている間に、私も立派なおばさんになったってことなのね。。。

驚いている場合ではありません。これが我が子の小学生最後の勇姿というなら見届けなければならぬ。なぜなら、いつも子どもが対戦相手から点数をとられるたびに“見ない”という選択をしてきたから。具体的に言うと、観戦中にコートから目を背ける。ではなく、目を開けたまま見えない状態をキープしてきたのです。おそらく、遠くから私を見た人は「ドンマイ」と白目をむいて叫んでいるおばさんの姿に腰を抜かしたことでしょう。

だけど、今日は全部見る。劣勢で苦しんでる姿も、9-9やデュースといった手に汗握る場面も。子どもの6年間の集大成をすべて記憶にとどめるのだ。

そう卓球の神に誓い、子どもの応援をはじめた瞬間に、ほ~あるね、あるね、苦しい場面。3点以上離されちゃった。おおっ、巻き返し。5点も連続ポイントとれたね。残念、最後は離されてゲームとられちゃったね。ええっ、またデュースですか。相手は粘り強い。うちの子もあきらめていない。12年前、13時間の陣痛に耐えて大量の血と共に生み出した我が子はこんなにも格上相手に粘れるタイプだったっけ? あと1本の場面で、こんなにも力強くラケットを振れる子だったっけ?

知らない間というのは嘘だな。ずっと、子どもの卓球を見守ってきた。見守り過ぎて、強くなっていることに全然気づかなかった。卓球もメンタルも。だって、ずっとあなたの頑張りに白目むいて見守ってきたんだよ。私は、卓球母は。あなたが小学校から本格的に卓球をはじめて、試合で勝てない時期が何年も続いて、イライラして何度も「卓球やめなさい」と怒鳴ってごめん。休みの日は試合ばかりでごめん。運動会に出られなくてごめん。学校の友達と遊べなくてごめん。そして、「卓球レディース」の運営に夢中になってごめん。

会場を見渡すと、お子さんの“あと一本”の場面で、目をつぶる卓球母がいた。お子さんの“あと一本”の場面で、両手を合わせる卓球母がいた。そして、お子さんの“あと一本”が入りますようにと、床に落ちているゴミを拾う卓球母がいた。小学生の試合会場には「子どもの闘志」と「卓球母の愛」しかないのよ。

こんなにも多幸感に包まれる空間に、母を連れてきてくれてありがとう。たくさんの成長を見せてくれてありがとう。

それだけじゃないな。

あらたな季節が始まる。あらたな人生が始まる。

その前にどうしても言っておきたいことがある。

毎日欠かさず、仕事帰りに卓球教室へ子どもを迎えに行ってくれた夫に、ありがとう。

感染対策をして子どもたちの大会を開いたくれた関係者の方々に、ありがとう。

卓球母の非難を恐れずに審判を引き受けるシニアのボランティアの方々に、ありがとう。

卓球の才能がない我が子を、才能のある子たちと同じように育ててくれたコーチに、ありがとう。

そして、

そして、

卓球にありがとう。

 

 

 

 

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