混合ダブルス準々決勝、水谷隼/伊藤美誠ペアの逆転勝ちは、コートサイドで見ていてもびっしり鳥肌が立った。最終ゲーム2−9からの逆転勝ちというのは、普通ではちょっと考えられない。しかも6-10でマッチポイントを握られていたのだから。
最終ゲームの出足、水谷/伊藤ペアの勝利を信じて決めたフォトポジションを、途中では敗戦を前提に変えざるを得なかった。そして、10-10でまた急いで元のポジションに戻った。
対戦相手のドイツペアは、水谷/伊藤ペアのプレー、特に伊藤のプレーをよく研究していたように思う。相手のボールの質が高ければ高いほど、それを利用して質の高いボールを出せるのが伊藤の強み。ガツンと切れたツッツキでも、表ソフトとは思えないほど回転量のあるバックドライブで返せる。そこでドイツペアはナックルや深く低い上回転のボールをうまく使い、伊藤のミスを誘っていた。フランチスカの剛球を伊藤が受けるパターンのゲームでは、フランチスカに打たせまいと水谷にミスが出る場面も多かった。
水谷自ら「ダブルスでは主導権は美誠が握っている」と語るほど、普段は年下の伊藤がリードしていく水谷/伊藤ペア。しかし、終盤にミスが続いて苦しいプレーになった伊藤を、強靭なメンタルで支えたのはやはり百戦錬磨の水谷だった。その水谷の神がかりのプレーに、伊藤も最後は「乾坤一擲」のロングサービスで応えた。
歓喜を爆発させた後、コート上で涙の伊藤を抱擁した水谷。束の間、豊田町卓球スポーツ少年団で伊藤のことをいつもおんぶしていた、頼れるお兄さんに戻ったように見えた。昨日から各競技で「レジェンド」と言われる選手たちの予想外の敗戦が続くなか、水谷隼はまだまだ現役だった。素晴らしい勝利だ。
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