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東京五輪卓球

気配なき男。驚異の決定率を誇る林昀儒のロングサービス

草の根の中級プレーヤーの「あるある」のひとつに、「ロングサービス、出す前にバレる」というのがある。グッと肩が前に入り、体全体にも力が入り、なんとなく「出すぞ出すぞ」という空気が漂ってしまう。結果的に、見事に回り込まれて狙い打たれてしまうわけだ。

ところが今大会、ロングサービスをバンバン出しながら、そのほとんどがサービスエースになる稀有(けう)な選手がいる。樊振東(中国)と準決勝で大激戦を展開した林昀儒(チャイニーズタイペイ)だ。

林昀儒は、ゲームによっては「2本に1本はロングサービス?!」というくらいロングサービスの割合が高く、常に低く速く、厳しいコースへ決まる。そして何より、出す前にロングサービスの「気配」を感じない。静寂の中から、突然鋭い刃で切りつけられ、気がついた時にはエースを奪われている。チキータ封じのロングサービスの対策は十分に積んでいるはずの樊振東でさえ、試合の中盤になってもまともにレシーブできない。

台のエンドラインギリギリに第1バウンドを置く林昀儒のロングサービス

林昀儒のプレーというのは、サービスのみならず全般的に気配がないというか、相手に与える情報が少ない。チキータも打球直前までほぼ同じフォームから、コースを打ち分けることができるので、これまたよく効く。

彼がTリーグの岡山リベッツに加入し、岡山武道館で顔写真を撮ったことがあるが、「笑って!」と言っても全然笑顔を作れないシャイな青年だった。試合後のミックスゾーンでは、「Tリーグに参戦した感想は?」というシンプルな質問に対してもひたすら沈黙。卓球雑誌で働いて、シャイな少年への取材には多少慣れているが、「うーん、大丈夫かな?」と思った記憶がある。

そんな林昀儒が、準決勝ではこれまでにないほど声を出し、最後の最後まで樊振東に食い下がった。もはや押しも押されぬ、世界のトップ選手だ。チャイニーズタイペイの男子選手では、2012年のロンドン五輪で荘智淵がベスト4に進出したが、銅メダル決定戦でオフチャロフ(ドイツ)に敗れ、タイペイ男子初のシングルスのメダル獲得はならなかった。

そして今夜、林昀儒の3位決定戦の相手は、奇しくも再びオフチャロフ。大先輩がロンドンで逃した銅メダル獲得を狙う。

チキータの決定率も高い林昀儒。返されても打球点の高いカウンターで狙っていく

ベンチはこの人、バックプッシュがトレードマークだった蒋澎龍

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