2018年(平成30年)、新本社ビルが完成し、老朽化が進んでいたバタフライ卓球道場のリニューアルにも着手したバタフライ。現在ではバタフライ卓球道場を有意義に活用するために『バタフライ卓球道場基金』が設立され、バタフライ卓球道場をこれからどう活用していくか、議論を重ねている。
1983年に完成してから現在に至るまで、バタフライ卓球道場は利用者から1円も料金を取ったことはない。むしろ空調費や光熱費、貸布団のレンタル代など、毎年膨大な運営費がかかる。それでもなお、「新たな活用法についての議論はありましたが、道場をなくすという話はそもそもなかったですね」と大澤卓子社長は語る。
もしバタフライ卓球道場が当たり前に使用料を払う卓球場だったら、果たして「聖地」になり得ただろうか。
リニューアルで大きく変化したのは、聖地の核心であるフロア以外の部分だ。そのコンセプトについて、大澤はこう語る。
「リニューアルに当たって、まず考えたのはエレベーターの設置です。以前は階段しかなく、車椅子の選手は2階の宿泊所と地下2階の練習場を行き来するのが大変でしたし、古くなった卓球台の移動や新しい卓球台の搬入は大変な作業でしたから。
そして宿泊施設にはそれぞれの部屋にしっかり鍵をつけ、個室も用意して、男女が一緒に生活していた大部屋の空間もしっかり分けたかった。以前は地下1階と2階にあって、宿泊所と離れていたシャワー設備も2階に集めて利用しやすくしました」(大澤社長)
必要な部分にはバリア(鍵)を設けながら、バタフライ卓球道場全体としてはバリアフリーを目指す。利用時の申し込みについてもシステム化を検討し、利用しやすい体制を整えようとしている。
「最近の道場は閉じられた空間だった部分もあるので、今後はより広く、卓球の普及に役立つ場所にしていきたい。指導者やトップ選手を目指す方々のための活用は引き継ぎながら、小学生やレディースの皆さんに向けた普及イベントや小規模な大会を開催することも考えています。
海外からの留学生についても、道場は宿泊費がかかりませんし、非常に良い環境で練習できる。まだ実績のない国や地域であっても、有望な選手は世界中にいますし、今後も受け入れを考えていきたいですね」(大澤社長)
2021年11月6日には新たなバタフライ卓球道場の活用法として、第1回となるバタフライ・アドバイザリースタッフミーティングを開催。現全日本チャンピオンの及川瑞基(木下グループ)や吉村真晴、19年世界選手権ベスト8の加藤美優(日本ペイントマレッツ)など、8人のバタフライ・アドバイザリースタッフが集合した。研究開発部のスタッフも出席し、用具に関する説明や試打会などが行われた。普及のために広く門戸を開く一方で、トップ選手が集うバタフライ卓球道場は、今も昔も子どもたちの憧れの場所であり続ける。
東京都杉並区阿佐谷南1丁目7番1号。
純白のバタフライ卓球道場は、強い日差しを跳ね返しながら静かに佇んでいる。白球の聖地は、一日も早いコロナ禍の収束を願いつつ、より多くの卓球人にお披露目される日を待っている。あなたが卓球というスポーツに夢中なら、うまいかどうかなんて関係ない。バタフライ卓球道場のフロアに立ち、ボールを打つ前に少しだけ目を閉じて、耳を澄ましてほしい。
「卓球を好きになってくれて、ありがとう」
五輪の金メダリストから94歳の現役プレーヤーまで、数多の卓球選手の汗と涙、笑顔と歓声が染み込んだバタフライ卓球道場の片隅から、そんな呟きが聞こえるかもしれない。
(文中敬称略)
卓球王国12月21日発売号より
文=柳澤太朗
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