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卓球と落語、異色の二刀流。元マスターズ王者は、気鋭の落語作家?

上写真:噺家の桂治門師(左)と小松

今からちょうど10年前、2015年の全日本選手権マスターズの部、男子ローシックスティで優勝を飾った小松繁(現・城東クラブ)。今年11月22〜24日に行われた全日本選手権マスターズの部でも、ローセブンティで3位に入った実力者で、関西のマスターズ卓球界では知られた顔。堂々たる体躯から粘り強くフォアドライブを連打し、得点を重ねる。

実は小松には、知る人ぞ知るもうひとつの顔がある。落語の台本作家でもあるのだ。普段は寡黙で穏やかな物腰。卓球人としての小松しか知らない人が、この意外なキャリアを聞いたら「あの小松さんがねえ……」と驚くかもしれない。

11月22〜24日に行われた全日本マスターズでは、ローセブンティで3位入賞

全日本マスターズで初優勝する少し前、定年を目前にして大阪シナリオ学校に入学し、落語の台本を書く勉強を始めたという小松。もともと落語が好きで、寄席(よせ)や落語会によく行っていたのだという。

「好きな落語の関係で、何か将来に残せるようなことができたらと、最初はぼんやりとした希望でした。自分が書いた台本を噺家の方にやってもらえて、うまくいけばそれが引き継がれて、落語界でずっと演じられるものになればうれしいなあと、少しずつ思うようになりました」(小松)

台本を書き始めて、最初に噺家が演じてくれた台本は、落語協会の台本コンクール入選作となった『木彫りの師匠』。自分の書いた台本が演じられる間、小松はいつも客席の後ろのほうで、お客さんの反応をじっと見ている。

「卓球はもちろん勝ちたいし、勝とうと思って頑張っているけど、負けても自分が悔しい思いをするだけだし、自分が責任を取ればいい。でも落語の台本はプロの噺家さんにやってもらって、お客さんはお金を払って、貴重な時間を割いて聞きに来てくださる。下手なものを聞かせたら、噺家さんとお客さん、どちらにも申し訳ないし、やっぱり責任というのはありますよね」

『作家の台本を育てる会』の様子。出演した柳家一琴師匠(中央右)、林家つる子師匠(同左)とのトークタイム。写真右端は同じく落語作家の荻野さちこさん

仕事を退職してからは午前中に台本を書き、夕方や夜にラケットを握る日々。自分の好きなことに邁進し、悠々自適の生活にも思えるが、「どちらもストレスがたまるような感じで、体には良くないですね」と笑う。

ちなみに卓球をテーマにした台本では、『卓球レディース』の西村友紀子さんのエッセイを下敷きにした『卓球母』がある。噺家さんに読んでもらいながら、上演に向けて内容をブラッシュアップしているというが、自分で卓球が題材の落語を書くことはあまり考えない。専門的な知識が多くなると、かえって話の邪魔になることもあるからだ。

「喉から手が出るほど勝ちたい思いをもとにして、『御前試合』という台本を書いたこともあります。卓球で味わった劣等感や見栄、嫉妬や腹立ちといったロクでもない感情が、自然と台本の中に出てきたり、題材になったりしていますね」

小松の台本が上演される『作家の台本を育てる会』は、2026年1月17日に大阪・日本橋の『笑仁亭』(出演:桂小鯛師・笑福亭呂好師・笑福亭笑有師)、3月14日に東京・高田馬場の『ばばん場』(出演:柳家蝠丸師匠・柳亭こみち師匠)で開催予定。噺家の巧みな話術で台本が生き生きと演じられ、上演時間があっという間に過ぎてしまうこと、間違いなし。ちなみに『ばばん場』の階下には卓球場『卓トレ高田馬場店』もあるので、卓球から落語へのハシゴもできますよ。

★『作家の台本を育てる会』公式Xはこちら

『作家の台本を育てる会』は1月17日に大阪、3月14日に東京で開催

『幻のネタ下ろし』落語会でも小松の台本が上演される

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