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WTT横浜

早田ひな、左手神経の不調を抱えながらも勝利。張本美和、手応えと悔しさを胸に進む

横浜の大観衆の前で行われた日本人対決。勝利の女神が微笑んだのは早田ひなだった。だが、その裏には知られざる苦境との闘いがあった。

●女子2回戦
早田ひな(日本)3(7、9、5、−117)2張本美和(日本)

「逃げたら負け」―早田が選んだ覚悟

試合中、左手に走る違和感。原因は、遡ること数ヶ月前。長時間の飛行機移動中に不自然な姿勢で眠ってしまい、尺骨神経を圧迫したことによる握力低下だった。それ以来、ボールを強く押し出す感覚が薄れ、フォームも安定しない。世界選手権以降も症状は続き、思うように練習が積めない日々が続いた。

それでも、彼女はコートに立つ道を選んだ。「いつ治るか分からない。今の状態でできることを探して戦おう」。逃げずに試合に向き合うことが、勝敗以上に自分を成長させると信じていた。

試合の鍵は、第5ゲーム2-4でのメディカルタイムアウト。USスマッシュの陳熠戦で、同様の症状でタイムを取らなかったことで悔いを残した経験があり、今回は覚悟を決めて選択した。

「同じ後悔は二度としたくなかった」。メディカルタイムを挟みながらも冷静に修正し、ラリーのテンポを取り戻した。

張本の“流れ”との戦い

敗れた張本美和も、確かな手応えを得ていた。第2ゲームを奪い、最終ゲームでは早田がメディカルタイムを取るまで先行する場面もあった。

「前回よりも内容は良くなっている。取り返して取られての展開の中で、第2ゲームを取れたのは大きかった」と前向きに振り返る。

だが今回の試合、早田のメディカルタイムを境に試合の流れは確かに変わった。「リードしていると自分に言い聞かせたけど、流れは簡単には保てなかった」。そのわずかな揺らぎが、最後の勝敗を分けたと、張本は時折涙ながらに語った。

サーブの選択やタイムアウトの判断など、張本は試合中に自ら考えて動く場面が増えている。「正解じゃないこともあるけど、サーブや戦術など、確実に1年前の自分より強くなっていると感じる」。負けの悔しさを隠さず、同時に進化の実感を口にした。

次へと向かう二人

早田は勝利後、「苦しい状況でも前を向き続けることが自分を強くする」と語った。張本も「悔しいけれど切り替えて、ヨーロッパスマッシュに備えたい」と前を向く。

観客の声援を背に繰り広げられた熱戦は、単なる勝敗を超え、選手の1勝への執念・気持ちの大きさを映し出したものであった。 (楊彩乃)

最終ゲームの2-4でのメディカルタイムを取った早田

 

納得いかない敗戦に試合後に涙を見せた張本美和

 

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