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取材力で圧倒するペン記者・林直史「日本選手の金メダルの記事を書きたいですね。可能性はある」

びっくりしたのは2017年当時の張本選手ですね。

当時はまだ13歳の中学1年でしたが、

言葉力、語彙力が素晴らしいと思いました

 

ーー林さんから見て、印象に残る選手はいますか?

 びっくりしたのは2017年当時の張本選手ですね。当時はまだ13歳の中学1年でしたが、言葉力、語彙力が素晴らしいと思いました。世界選手権の準々決勝が終わった後に「13歳で史上最年少のベスト8ですけど」と私が聞いたら「記録よりも一つのメダルが欲しかった」という言葉が返ってきて、驚きました。他の競技でも、その年齢でなかなかああいうコメントを発する選手はいないですね。全体的に卓球の選手は頭の回転が速い印象があります。伊藤美誠選手もそうですし、石川佳純選手も相手の聞きたいことを汲んで、話をしてくれていると思います。

水谷隼選手は典型ですが、何ゲーム目の何対何のスコアの時に、自分がこういうサービスを出して、相手がこう来たから、自分はこうしたということを瞬時に言ってくるのも驚きですね。たとえば全日本でもコメントをもらう時に2試合前のこととかを普通に答えてくれる。将棋に近い部分があるんでしょうか。

 

ーー林さんはデータでも相当に詳しいけれども、何か「癖」があるんですか?

 データマニアではないんです。調べるのも好きではないし、数字に強いわけでもない。私は卓球経験者じゃないし、卓球は経験者とそうじゃない人との感覚の差は大きい。ボールの回転や狙いがわかるわけでもない。その感覚がわからないから、それを補うために調べていって準備していくしかない。過去の対戦で、いつ対戦して、どういう内容だったかを調べるしかない。純粋に試合を見て、それだけでは深い会話ができないからです。

わからないことは素直に「あれはどうだったんですか」と聞きます。知らないことを知っているかのように聞くことはできませんから。

スポーツ紙は文字数も限られるし、読者は卓球を知っている人ばかりではなく、むしろ知らない人のほうが圧倒的に多いから、その人たちにわかるように書かなければいけない。専門用語は使えません。チキータと書くと、(攻撃的なバックドライブレシーブ)と( )で注釈を入れなければいけないし、ツッツキやフリックとかも使えないとなると、選手のドラマや人間性に力を入れて伝えるしかない。過去にどんな因縁があったのか、悔しさがあったのか、この試合にどんな意味があったのか、どんな努力をしてきたのかを伝えていくことが大事ではないか。そのためにはその人のことを知らなければいけない。そう考えると、準備は大事だし、覚えておくことが大事だと思う。「あの時、ああ言っていたな」とか。

記事を書く際にスポーツ新聞は特にキャッチーだったりドラスティック(激的)な取り上げ方になりがちですが、選手にリスペクトを持って、選手の気持ちを考えて書くということは大事にしようと心掛けています。例えばチョレイを面白おかしく書くことに抵抗があり、極力そこをフォーカスすることは控えています。

また、卓球取材ならではだなと感じる点が、例えば弊社で後援している関係で毎年ホカバの取材に行っていますが、他競技では小学生の年代を取材することはほとんどありませんし、

松島輝空選手や張本美和選手のように、そこで取材した選手がそんなに時間を置かずに全日本選手権やTリーグなどトップ選手と同じ舞台に立つようになり、また取材する機会があるというのも独特な流れだと思います。新聞記者は数年で担当を替わることが一般的ですが、その短い期間でも育成年代からの選手の成長を見届けられるのは面白い点だと思いました。

 

ーー林さんから見て、東京五輪はどうですか?

 ずっと見ているので中国の強さもわかっていますが、正直に言えば、日本選手の金メダルの記事を書きたいですね。可能性はあると思っています。

卓球選手ほど、生活の中での卓球が占める割合が大きい競技はなかなかないと思う。練習も長いし、オフもほとんどない。コロナ禍の前は本当に1年中、海外を飛び回っていました。移動も大変だと思います。それだけ人生を卓球にかけている選手を見てきているからこそ報われてほしいと思います。

 

<卓球王国2021年6月号に掲載 聞き手:今野昇>

 

はやし・なおふみ

1984年8月22日、愛知県名古屋市出身。2007年報知新聞に入社。プロ野球(中日ドラゴンズ)、Jリーグの担当を経て、2017年1月から卓球担当。報知新聞東京本社、編集局運動第二部に所属

 

林直史さんの記事が掲載されている卓球王国6月号は発売中

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