2月6〜12日にヨルダンで行われた『WTTコンテンダー アンマン』。男子シングルス決勝で、17歳の林詩棟(中国)が東京五輪銅メダリストのオフチャロフ(ドイツ)をストレートで破り、優勝を飾った。
WTTの大会では、昨年の『WTTフィーダー・ブダペスト』で優勝している林詩棟だが、WTTコンテンダーではこれが初優勝。今日14日に発表された世界ランキングでは、37位から23位へとランキングを上げた。すでに中国男子では6番目の位置につけている。
コロナ禍の真っ只中である2020年12月に国家2軍チームに入った林詩棟。編集部タローは昨年の世界選手権成都大会(団体戦)で、代表選手のトレーナーを務めているところしか見ていない。どっしりとした胴回りとボディバランスの良さ、ミスの少ない両ハンドのボールタッチが印象に残っているが、「これが『小小胖』か」としばらく眺めた程度だった。「小胖(小太り)」と言われる樊振東に近い体型なので、「樊振東2世」の意味も込めて「小小胖」というあだ名がついたのだ。
しかし、『WTTコンテンダー アンマン』での林詩棟のプレー、特に決勝のオフチャロフ戦で見せたプレーは見事だった。映像でしか見られないのが残念だが、この1年での成長スピードは凄まじく、その潜在能力は樊振東に勝るとも劣らない。体の使い方が合理的でスイングスピードが速く、フォアハンドとバックハンドの両方から、あらゆるコースにパワードライブを打ち分けていく。
168cmという身長は国家男子チームの中で最も小柄なほうで、フォアサイドの厳しいコースに打たれたボールに対しては押される場面もある。しかしながら、今さらながら……その才能に疑いの余地はない。『WTTフィーダー アンマン』(2月1〜4日)の男子シングルス決勝では、対戦相手の曹巍に最終ゲーム9ー10でチャンピオンシップポイントを握られた場面で、レシーブからフォアのパワードライブを強振。ネットミスで準優勝に終わったが、あどけなさの残る顔つきに似合わず、打つと決めたら打つ肝の座ったところがある。
現・世界王者の樊振東と、「樊振東が憧れの選手」だと言う8歳年下の林詩棟。17歳当時のふたりのプレーを比較すると、中国男子のプレースタイルの変化が現れていて興味深い。林詩棟のプレーからは、中国男子が今後目指していくスタイルが透けて見えるようだ。
樊振東は17歳の時、中国・南京で行われた第2回ユース五輪で優勝している。強力なチキータから快速両ハンドを連発するスタイルで、特にフォア前チキータからバックに戻ってストレートに放つ前陣バックドライブは天下一品。YGサービスを多用し、相手のレシーブをバックに誘導してバックドライブで狙い打った。一方で、2014年アジア競技大会のシンガポール戦では、チキータをブロックやカウンターで狙われ、2点を落とす場面もあった。バックハンドの技術力はすでに世界一と言えるレベルだったが、フォアハンドのインパクトの強さや打球点の幅、コースの打ち分けに課題を残していた。
一方の林詩棟は、樊振東とは対照的にレシーブではチキータはほとんど使わない。フォアのストップと低く切れたツッツキを駆使し、対戦相手がつないできたボールを両ハンドで狙い打つ。カウンターのバックドライブ、回り込んでストレートに放つフォアドライブの切れ味は素晴らしく、フォア前へのサービスをフォアフリックで強く払えるのも強みだ。
2010年代前半、張継科(2012年ロンドン五輪金メダリスト)の登場によって一斉を風靡した「チキータ」。しかし、低く切れた縦回転サービスやハーフロングサービス、「フォア前+バック深く」のサービスの組み合わせなど、チキータの威力を弱めるサービスの研究も進んだ。チキータを当たり前のように使いながらも、チキータだけで優位に立てる時代ではなく、樊振東ですらチキータの使用頻度はかなり低くなっている。さらに林詩棟らのプレーを見ると、「脱・チキータ」の印象がより一層強くなる。
5月の世界選手権個人戦の代表入りも視野に入ってきた林詩棟。後編では、「東洋のハワイ」と言われる海南島で生まれた彼のこれまでの経歴について紹介しよう。
ツイート