カットで華麗に相手の攻撃をひらりひらりとかわしがら相手が打ちあぐんだら攻撃を打ち込む。そして、糸を引くようなカットを後陣から送り、相手のミスを誘う。そんなカットマンの真骨頂と英田理志のプレーは無縁だ。
英田理志はカットをしないカットマンなのだ。
今大会、英田は吉村和弘にリベンジを果たして、続く郡山北斗を4-1で仕留めた。カットを決め球としない、変幻なプレーを見せた。
ベンチに入ったのは、ミスター・カットマンの高島規郎さん。現役時代、コート上を駆けるような広い守備範囲を誇り、世界中のカットマンを魅了した人だ。その高島さんが「今の時代は攻撃できないカットマンではダメだ。攻撃ができないからカットをやるというスタイルが良い」と、まるで現役時代の自分を自己否定するかのような理論を以前から展開し、ある意味、合致した選手が英田理志だった。
森薗政崇との準々決勝。最後まで主導権を奪えず、1-4で英田はベスト8で散った。
「マサ(森薗)のほうが場に慣れてた。1ゲーム目が勝負だと思ってたけど、取れなくて厳しい状況になった。マルチボールの難しさを感じました。1球ずつ違っていて、ボールに慣れることができない。いつもなら多少ブレていても、試合の中で慣れることはできるけど、マルチボールは難しい。それは同じ条件だし、向こうのほうが辛抱強かったということ。
技術の一つひとつのレベルアップが必要だと感じました。ぼくはたくさんの技術で点を取る必要がある。引き出しが多くて当たり前で、それを高めていかないと勝てない。来年また頑張ります」と試合後に英田は語った。
カットを主戦技術と言うよりも、いくつかの技のひとつとして使い、相手を幻惑しながら得点を重ねていく英田だが、本人が言うように、微妙なボールのばらつきにより、カットを自信持って繰り出せなかったのか。
ベンチに入った高島さんは「これからのカットマンは両面裏ソフトで、どこからでも攻撃ができることが条件。小さい頃、攻撃選手として育ち、途中からカットを教えて、英田のようなオールラウンド卓球をすることも、選手と指導者の選択肢のひとつになるだろう。そういう新しい卓球を作る先駆者として英田はさらに頑張る必要があるし、可能性がある」と評した。
社会人卓球を経験した英田は、スウェーデンで3シーズン戦い、プロとして目覚め、T.T.彩たまの一員としてTリーグデビューした。日本のプロの舞台で覚醒した新しいオールラウンドプレーヤーはノーシードから勝ち上がり、全日本の舞台で、その存在を鮮烈に示した。
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