<卓球王国2011年7月号より>
“Change”is the key to
improve yourself.
あなたの潜在力は眠っている vol.3
(全日本チャンピオン)
静岡から青森に移り、青森からドイツに渡り、次に中国の超級リーグに参戦したり、また日本に戻ったりと、今まで節目節目で卓球をする環境を変えてきたことで強くなったと思っている。その時はコーチや家族が考え、自分の考えを加えて決めていった。
ぼくの場合、その環境に慣れてくるとマンネリになる。毎日刺激を与えてくれる場所に行って、強豪選手と切磋琢磨して強くなっていける環境に身を置きたい。小さいうちからそれなりに力もあったので、どんどん練習していけば、自分の張り合える選手が少なくなってくるので、いつもいろいろな場所に行って、強い選手を求めていた。
最初、静岡から青森山田中に転校した時も、その前に何回か合宿で行ったことがあって、ここで練習してみたいと思っていた。転校だったので最初はなじめなかったけど、数カ月したら溶け込めた。青森に行く前に実はドイツに行っていた。デュッセルドルフには強い選手がいたし、コーチのマリオ・アミズィッチもいた。その後に、中国の超級リーグに行ったのも刺激を求めたから。当時の世界(五輪)チャンピオンの馬琳と同じチームだった。そんなチャンスはなかなかないことで、一緒に練習できて、間近にチャンピオンを見たことが刺激になった。
マンネリ化することは嫌なことではないし、慣れてやりやすくなる面もある。でも、日本で練習をする限りは、相手は自分より格下なので、物足りなさは毎日感じる。しかも、相手が自分と練習することを当たり前だと思うと、その人とはもう練習できない。相手が「あっ、水谷さんと練習だ」と試合と同じ緊張感を持って練習すればいいのだが、ぼくと練習することを当たり前だと思うと簡単なボールをミスするようになるし、ぼく自身が求めている練習ができなくなる。
もっと上の選手と練習できる環境を求めて、これからも挑戦したい。とにかく毎日の練習でも内容を変えていかないといけないし、自分が進化する、成長するのに見合った環境に変えていかなくてはいけない。もちろん、中には環境を変えたくないという選手もいて、それは理解できる。たとえば、日本のナショナルトレーニングセンターに、中国みたいに常に世界のトップ選手がいるのならば練習環境を変える必要はない。ただ、今のように、強い選手はすべて海外に行って、センターにはジュニア選手しかいないなら、そこで成長するのは難しい。トレーニングセンターに日本のトップ選手が集まり、そこに海外の強い選手が来るようになれば良い環境になっていくだろう。
練習内容、練習時間、打法、戦術、すべてを柔軟に「変えて」いくことが必要だと思う。技と戦術は無限にあるので、多ければ多いほど試合では役に立つ。
ゲームの中では戦術をがらりと変えることがある。効いていればそれで行くけど、慣れられてきたり、相手に対策を立てられたりして、自分の思いどおりの試合にならない場合は、普通の横回転から一気にYGサービスに変えたり、短いサービスだったのをロングサービスにするなど、やり方を一気に変えることはある。試合では少しの変化よりもがらりと変える。そうすると相手にボロが出てくる。変えることで、今までダメだったやり方に対しても相手が勝手に狂ってきたりする。
練習では相手の強いところへ向かっていくけど、試合では相手の弱点を徹底して攻める。これは中国選手がうまい部分だ。韓国とドイツの選手が試合中に変えてきても、「変えてきたか」という程度で慌てないけど、中国選手が変えてくると、「やばい、変えてきたぞ。あのやり方がばれているのか」という先入観が入る。これは、他の日本選手がぼくに対する状況と同じだと思う。
中国とやる時はお互いが変えるという駆け引きがあり、競り合った時にどう変えてくるのかという読み合いになる。やり方を変えるということは、自分の不得意なことまでやらなければいけない面もあるから、変えたことで自分が対処できない部分が出てくるので、変えるということにも勇気がいる。普段、変えるための練習もやっておかなくてはいけない。
一つひとつの技の質を高めていくことが大事で、サービスを変えた時に正確に出せることが重要だ。ぼくは変える時の1本目で、他の選手よりも数倍、質の高いサービスを出せる自信があるし、たとえばレシーブでいきなりチキータをして、良いボールを出せる自信があるので、そこが強みになっていると思う。通常は、変えた直後のサービスは失敗する。それは二流の選手で、ぼくら一流の選手は変えた直後の1本目のサービス、レシーブを正確にやれるものだ。 ■
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