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Tリーグ

地域密着の卓球クラブ「T.T彩たま」は成功するのか

T.T彩たまが成功すれば全国に地域密着の卓球チームができる
 9月28日、埼玉県さいたま市の浦和ロイヤルパインズホテルで、「T.T彩たま」が卓球の新プロリーグのTリーグへの決起パーティーを開催し、700人を超える人が応援に駆けつけた。
 T.T彩たまの球団代表は、柏原哲郎社長。彼は埼玉県三郷市を本拠地とする中古車販売会社の「トーサイアポ(株)」の社長も務めている。トーサイアポは関東圏の中古車販売ではシェアNo.1とも言われる会社だ。
 柏原自身も小学生の時から卓球を始め、高校は当時の高校卓球界の名門、熊谷商高に進み、インターハイでは団体優勝に貢献している。
 高校卒業後は明治大に入学後も活躍した。そして、明大卓球部での同級生がTリーグの松下浩二チェアマンだった。卒業後も二人の交友関係は続いていたが、昨年の12月から1月にかけて、Tリーグに参戦するチームが決まらず、松下が切羽詰まった状態になった時に「わかった。浩二がそこまで苦しんでいるのなら、オレが助ける。オレがあいつを男にする。おれが埼玉でチームを作る」と名乗りを挙げたのが柏原だった。
 その時は資金を作る当てがあるわけでもなく、Tリーグがどう進んでいくのかを熟知しているわけでもなく、親友の松下が苦しむ姿を見るに見かねての行動だった。ゼロからの立ち上げがどれほど大変なのかを、その後、彼自身は知ることになる。
「卓球に育てられたオレが、卓球へ恩返しをする」
 柏原がT.T彩たまの球団代表になった後は、本業のトーサイアポはほとんど部下に任せることになり、数カ月間、チームのスポンサーを集めるために足を棒にして動き回った。「うちのチームが成功すれば全国で同じような地域密着型のクラブが立ち上がるかもしれない」と柏原は言う。
 配った名刺は1000枚をはるかに超えた。行政との折衝や地域の会社に頭を下げる日々が続いた。「それまでの社長業では経験したことがないことばかり。考え方がすっかり変わりましたよ」と振り返る。
 卓球のTリーグが直面した最大の問題は「時間」だった。一般社団法人としてスタートしたのは2017年4月。まだ1年半も経っていない。そして、開幕は10月24日・25日。異例のスピードというか、時間のなさだ。
 日本卓球協会での承認やTリーグの法人化への動きが遅すぎたが、2020年東京五輪があるために、この2018年秋しかスタートできない事情があった。五輪直前では選手への負担も大きい。五輪後になれば、2020年秋、もしくは2021年まで待たなければいけないという状況の中、松下チェアマンは2018年の10月を選んだ。
 それはTリーグという組織にとっても自ら課した高いハードルであり、参戦する各チームにとっても最大のネックとなった。Tリーグが地域密着とは言え、企業チーム主体となったのはそういう切迫した事情も関係している。
 柏原は卓球チームを立ち上げた理由は、親友への男気もそうだが、彼自身が語った言葉の中にある。それはありきたりだが、迫力のある言葉でもあった。
 「おれは卓球に育てられた男なんですよ。大学を出て、卓球からは距離を置いていたけど、今こんな大変なことをするのは卓球への恩返しなんですよ」。
 10月24日の両国国技館で男子のTリーグが開幕する。T.T彩たまが対戦するのは優勝候補、水谷隼、張本智和など日本代表4人を擁する「木下マイスター東京」だ。その時、柏原哲郎はどんな心境でコートサイドに立つのだろうか。 
(卓球王国編集長・今野)

熊谷商高時代の柏原哲郎社長


決起パーティーで挨拶する柏原哲郎社長

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