「インナーか、アウターか」。これは卓球ラケットの合板内の「特殊素材」が内側にあるか外側にあるか、その二択を問うものだ。
ほとんどの男子トップ選手が特殊素材ラケットを使用する昨今。選手にラケットについて尋ねると、必ずと言って良いほど「インナー」「アウター」という用語が飛び出す。トップ選手のみならず用具好きな一般愛好家も、インナー・アウターで迷ったり、合わせるラバーによっても選択を変えたりと、試行錯誤している人は多いだろう。
しかし15年前にはこの二者択一問題は存在しなかった。いや、正確に言えば、その用語(あるいは概念)が浸透しておらず、ラケット選びの選択肢として考える人は少なかっただろう。2009年にバタフライが「インナーフォース」シリーズを発売したことを機に、「インナー」と、それに対応する概念として「アウター」という用語が浸透していったと考えられる。
今回の特集ではインナー・アウターについて、その概念が生まれた経緯、選手・指導者のコメント、過去25年の全日本ベスト8使用ラケットにおけるインナー・アウター使用率の推移など、多方面から取り上げている。「インナーフォース」以前にも、80年代初頭からニッタクが特殊素材の位置を意識して合板設計していたことも確認できた(特集内で当時のニッタク・カタログの一部を掲載している)。確かに「インナーフォース」発売以前から、複数メーカーが「今で言うインナー」のモデルを発売していたのだ。ただ、特殊素材使用率アップ、ラバー性能向上、スピード増強接着剤禁止、ボールのサイズや材質変更、そして何より「インナーフォース」ブランド化など、複数の要因が組み合わさって、昨今の「インナーorアウター」という選択肢が生まれたのだろう。
なお、濵田一輝選手(早稲田大)は「大学進学時にインナーを試して、その打球感にハマった」とコメント。小学生時代からよく弾むアウターのみを使い続けてきた彼にとって、「木材感」が新鮮だったのだ。ラケットはもともと木材製という前提のもと、木材以外の素材は「特殊素材」と呼ばれてきたにも関わらず、幼少期から特殊素材モデルのみを使用してきた選手にとっては、木材の打球感が目新しく感じられるというのは興味深い。
やや話が逸れたが、初中級者向けの木材ラケットの売上が主流である一方で、上級者の多くは特殊素材ありきでインナー・アウターの二択となりつつある昨今。最終的には技術力、合わせるラバー、好み次第。明確な正解のないテーマだが、今回の特集が何らかの参考になれば幸いだ。
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