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中国リポート

伝説の「108将」、卓球ニッポンの秘密兵器を攻略した男、庄家富が逝去

1957年世界卓球選手権・ストックホルム大会の男子団体銅メダリストで、指導者としても中国女子チーム監督や男子チームコーチとして活躍した庄家富が、9月8日に90歳で逝去した。

庄家富は1934年12月生まれ、広東省広州市の出身。広州体育学院の卓球選手だった1955年、中央体育学院・競技指導科に配属されて、最も初期の国家チームのメンバーとなる。1957・59年世界卓球選手権の中国代表に選ばれ、57年ストックホルム大会では男子団体3位。同大会で女子団体3位となった中国女子チームとともに、中国に世界卓球初のメダルをもたらした。

また、1961年に行われた第26回世界卓球選手権北京大会では、すでにコーチ兼選手という立場ではあったが、大会に先駆けて中国全土から選抜された108名(男子62名・女子46名)の選手、通称「108将」にもその名を連ねた。中国の国家的事業と言われた大会だ。

この北京大会の直前、中国チームはひとつの大きな脅威にさらされていた。最大のライバルである日本チームが、裏ソフトラバーを駆使して強烈なトップスピンをかける新技術「ループドライブ」を考案。大会の前年、日本を訪問したハンガリーの歴戦の猛者(もさ)たちが「ボールに触れただけで吹っ飛んでいく」「まったく返球できない」と語るほどだった。

その日本が大会直前、香港で調整のための試合を行うという情報を入手した中国チームが、秘密兵器の謎を解くべく、香港へと派遣したのが庄家富だ。広東省の出身で、会話をしても怪しまれないから、というのがその理由。サングラスをかけ、新聞紙で顔を隠しながら、余白にドライブの攻略法を書きつけていったというから、まさに「特務(諜報員)」さながらだ。

庄家富が持ち帰った情報をもとに、速攻と台上プレーの短期特訓で日本男子のループドライブの猛攻をしのいだ中国は、北京大会で初の男子団体チャンピオンとなった。庄家富はその後、国家チームのコーチとして張燮林、梁戈亮、蔡振華、王会元など多くの世界チャンピオンを育成した。

1983年世界選手権東京大会で、男子単準優勝の蔡振華のベンチに入った庄家富(左)

1957年の世界男子団体3位のメンバーのうち、香港出身だった姜永寧(チァン・ユンニン)や傅其芳(フー・チーフォン)は文化大革命という政治運動の渦に巻き込まれ、1968年に40代の若さで命を落としている。激動の時代を生き抜いて「中国卓球界の生き字引(じびき)」と言われ、90歳の長寿を全うした庄家富。卓球界の大先輩に、改めて哀悼の意を表したい。

ちなみに庄家富の名字「庄」は「荘」の簡体字。同じ姓で1961・63・65年世界卓球3連覇の荘則棟や、チャイニーズタイペイの荘智淵は「荘」の字が一般的だが、庄家富は中国での表記に合わせた。発音も広東語だと「チュアン・チアフー」、中国の普通話(標準語)だと「ジュアン・ジアフー」だが、オールドファンの方には「しょうかふ」という呼び方のほうが馴染みがあるかもしれない。……超がつくほどのオールドファンということになりますが。

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