卓球王国 2024年4月22日 発売
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インタビュー

卓球メーカー社長インタビューvol.2 『ドニック』瀧澤光功取締役【後編】

 

ドニック契約選手である鈴木颯選手への思い。

(インターハイの)颯君の逆転勝ちを会場で見て涙が出ました。

 

――卓球王国の誌面でも紹介しましたが、ドニック・ジャパンと鈴木選手との契約は、特別な縁があったと感じています。

 

瀧澤 颯君との関係は1本の電話から始まりました。颯君のお母さんが、小学3年で全日本カブに出場することになった颯君に「ベスト8に入ったら大好きなパーソンに会わせてあげる」と約束をしたそうです。お母さんにしてみれば(ベスト8に)入れるとは思っていなかったようですが、その大会で颯君はがんばってベスト8に入りました。どうしようとなって調べたら、パーソンはドニックと契約していることがわかって、それで弊社に電話がきたんです。

でも、パーソンはすぐに日本に来る予定もなかったですし、そう簡単に颯君をスウェーデンに連れて行くこともできないですから、こちらとしては「パーソンが来日して講習会が決まったら、必ずご連絡します」とお伝えしたんです。

そして、しばらくして颯君から手紙が届きました。小学3年生の颯君が辞書を見ながらスウェーデン語でパーソンにファンレターを書いていたんです。これには驚いたと同時に、彼は本気なんだというのがわかったんです。その手紙はドイツのドニック本社に「必ずパーソンに渡してほしい」と送り、後日パーソンが受け取りました。その後もお母さんを通じて颯君と何度かやり取りをしていましたが、当時はドニックの用具を使ってほしいというような話はこちらからは一切していませんでした。

 

その後、颯君のお兄さんが東京選手権に出場することになって応援で東京に行くので挨拶をしたいという連絡をもらいました。颯君に会った時に、以前パーソンが来日した時にもらっていたサインラケットをプレゼントしたんです。サインラケットは『パーソン パワーカーボン』というラケットで、その個体は特に重くて105グラムもありました。颯君がとても喜んでくれた顔は今でも忘れませんね。

びっくりしたのが、4年生の全日本カブの試合で颯君がそのサインラケットでプレーしていたことです。ラバーもドニックのものを使ってくれていて、とても小さな子どもが使えるような重さの用具ではなかったのに、颯君はカブで全国優勝したんです。そこまでパーソンが好きで、しかも全国チャンピオンになったわけですから、ぜひドニックと契約してもらいたいという話をして、小学4年の終わりから正式に契約させてもらいました。

 

――その鈴木選手は今夏のインターハイで3冠王になりました。小学生からサポートしている光功さんにとっては感慨深いものがあったと思います。

 

瀧澤 インターハイでは売店を出していたので、颯君の逆転勝ちを会場で見て涙が出ました。中学からここまでシングルスで何度も上位に行っていましたが、優勝に手が届かなかった中で、最後のインターハイで最高の成績をあげてくれました。

 

インターハイ3冠王の鈴木颯選手と瀧澤さん

 

――ドニック・ジャパンとして思い入れのある商品などはありますか?

 

瀧澤 いくつかありますが、一番は『J.O.ワルドナー OFF』というラケットです。このラケットは廃番になっていましたが、ワルドナーが現役を引退すると聞いて、日本で何か企画したいと考えていました。

私が中学生の頃は『J.O.ワルドナー OFF』を先輩たちが何人も使っていたので、復刻として発売できるかとドイツ本社に聞いてみたんです。本社からは「昔の製品をなぜ今出すのか」と言われて一旦は断られたのですが、「これは売れます」と説得して日本だけでいいのでやらせてほしいと交渉して、日本限定で発売することになりました。発注はミニマムなロット数でもそうとうの数量になりましたがすぐに完売しました。

その後は限定商品ではなく、カタログ商品として復活。日本だけではなく、ヨーロッパや中国でも売れていると聞いてとてもうれしく思っています。

『J.O.ワルドナー OFF』はレジェンド・ワルドナーがかつて使用したラケット。いまだ根強い人気

 

――ワルドナーと言えば、20年くらい前になりますが、友人たちとイルマソフトさんが行っているiruiruオープンに出たことがあるんです。その頃のiruiruオープンにはワルドナーが出場したこともありましたね。本物のワルドナーがオープン戦でプレーしていて、びっくりしたの覚えています(笑)

 

瀧澤 ワルドナーやフェッツナー(ドイツ/元世界ダブルスチャンピオン)が来日して、日本各地でドニック講習会を行っている中で、iruiruオープンに出場してもらいました。地域の一般の愛好者たちとの試合だと伝えましたが、彼らは「もちろんOKだよ!」と返事をしてくれました。

恐れ多いのですが、iruiruオープンで私はワルドナーとダブルスを組ませていただいて試合に出ています。学生時代に世界選手権クアラルンプール大会の団体でワルドナーとパーソンで中国を破って優勝しているのを見ていたので、彼らは神的な存在でした。

講習会などでワルドナーと打ったことがある人は結構いると思いますが、オープン戦とはいえ公式戦でダブルスを組んで試合に出た人はそうそういないですよね。私のミスが多くて迷惑をかけましたが(笑)、ワルドナーのおかげで全勝できました。

 

iruiruオープンでワルドナーとダブルスを組んで試合に出た瀧澤さん

 

――最後になりますが、今後のドニック・ジャパンについてお聞かせください。

 

瀧澤 ドニックには鈴木颯選手のような良い選手がいて、良い結果を出してくれています。彼に続く契約選手も少しずつ増やしていきたいと思っております。

お客様に対しましては、いろいろなブランドがある中で、ドニックを選んでいただけるように商品開発を推し進めていきたいと思っております。ドニックの商品を手にしていただいたお客様に「買って良かった。使って良かった」と思っていただけるブランドにしていきたいです。

 

瀧澤光功/たきざわみつのり

1986年9月24日生まれ。埼玉県出身

明治大学付属中野八王子中で卓球部に入部し、卓球を始める。高校以降はクラブチームで卓球を続け、明治大学卒業後に父親が起業したイルマソフト株式会社に入社。現在は取締役として、同社のスポーツトレーディング事業部が担うドニックの日本総代理店『ドニック・ジャパン』を中心にビジネスを行う。平成28年度全国ラージボール大会の一般B男子シングルス優勝。

 

インタビューを終えて、瀧澤さんに「自社の好きな商品」を聞くと「個人的には『ラバーウォーマー』です」という答えが返ってきた。

「『ラバーウォーマー』は弟と冬場の寒い時期の大会に出た時に、ラバーが硬くなって弾まないことがあり、これをなんとかしたいということで、ドニック・ジャンパンとコンピューターに詳しいイルマソフトのみんなで作った商品です。研究と開発を繰り返して、1年半後に商品化できましたが、寒さだけではなくて湿気にも効果を発揮するので、沖縄県のお客様が多く購入してくださっています」(瀧澤)

『ラバーウォーマー』は現在も発売中

 

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