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インタビュー

「もっと自己主張しないと、『いい人』だけで終わってしまう」「自分の生き方を見せたい」頑張れ、上田仁!

2022年全日本社会人選手権大会の上田

30歳を越えて、卓球選手として勝つことも
大事だけど、自分の生き方を見せることは
大きく掲げているところ

 

●-ぼくの周りでも、広く卓球界では上田君は将来トップの指導者になれる逸材と言われていました。今まで現役時代にそう言われた人は少ない。それほど君は優秀な人材です。今の時点では、いつ日本に戻るかとは考えていないんだね。
上田 考えていないですね。1年でも長くいたいし、ドイツに住んで長くやりたい。この間、バタフライのイベントで水谷(隼)さんと会って話をしたら、「おまえ、ドイツで10年くらいやって、中東からオファーもらえばいいよ」と言われました(笑)。
ドイツに行くことでいろいろな選択肢が増えます。そこが決まったら大きな決断が簡単にできるようになりました。東京に家を買ってたんですけど、家も売り払いました。ドイツに行くのに選択肢を狭めたらもったいない。ドイツから日本に戻るとしたら、どういうオファーがあってもどこにでも行けるようにしたい。

●-ものすごく変わっていくね、状況が。
上田 初めてですね。頭の中でいろいろ考えて決断に至らなかったのが、いったん決断をしてから同時進行で考えていくと、パンパンと決断できるようになりました。それだけでも大きいですね。

●-サッカーの長谷部さん(誠/アイントラハト・フランクフルト所属)みたいに現役の間にドイツのコーチライセンスを取るとかね。彼はまた1年、現役としての契約をした。
上田 クラブのオーナーにも「サッカーの長谷部のように頑張ることを目指してくれ」と言われています。ただぼくはまだ1年契約なので先のことはわかりませんが。

●-いつドイツに出発するんだろう。
上田 7月、遅くても8月上旬には行きます。6月に一度チームの写真撮影があるので、妻と一緒に行って、住むところも決めてきます。だから、日本から住所も抜いていくし、日本の試合には出ないです。社会人も全日本(選手権)も出ないです。単純に、1シーズン、ドイツで戦うし、家族で行くので、一度日本に帰るのも費用は大変なので、1年帰ってこないです。それで契約が延長できれば2年か3年は帰ってこないつもりです。もう国内大会には出ないです。

●-それは寂しいけど、頑張ってほしいね。
上田 (国内大会に出ないことは)それも価値のひとつで、向こう(クラブ)も日本人に来てほしいけれど、パリ五輪の選考会や全日本で帰るとブンデスに出る試合が限定されます。「ぼくは全試合やれます」と言ったので、「それならぜひ」と言ってもらいました。それが何試合か出て日本に帰るとなると価値が変わってくると思います。基本的には全試合出ます。他の選手もオリンピック前にWTTに出たりするので全試合出られる選手は価値があると言われます。他にも全試合出られる日本選手がほしいというクラブもあると聞きますね。

●-このシーズンは村松雄斗(マインツ)、神巧也(ザールブリュッケン)、戸上隼輔(オクセンハウゼン)と日本選手がブンデスに行っていたけど、上田君はどう見ていたんだろ?
上田 ヨーロッパ選手は癖があるけど、国際大会に出ている時にそんなに嫌いではなかった。ぼくはあまりラリーを引かないし、早く仕掛けるタイプです。久しぶりにヨーロッパでやるので、あの独特の雰囲気で自分がどれだけプレーできるのか。戦えると思っていなかったらドイツには行かない。
でもやっぱり、村松だったり、他の選手を見ていて、日本を飛び出して輝いている姿を見ると、それぞれのストーリーがあって、みんな順風満帆といかない中で、生き方としていいなと思ってました。30歳を越えて、卓球選手として勝つことも大事だけど、自分の生き方を見せることは大きく掲げているところでもあります。

●-日本では30歳近くなったり、30を越えると、もう引退ですか、ベテランだからと半ば冗談で言うことがある。でも、ヨーロッパでは「職業は卓球選手」と言う人が多く、それで家族の生活を支えていくから年齢は関係ない。日本を飛び出してドイツに行くのは高揚感もあるし、不安もあるかもしれない。
上田 不安というか、予期せぬこともあると思うけど、それも人生経験だと思う。行ってみないとわからないことも多いので、あまり考えていないです。自分のコンディションをしっかり作ることだけです。まずは行ってみてからです。

●-本当に頑張ってほしいです。定期的に上田仁レポートをさせてください。
上田 ありがとうございます。頑張ります。

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上田仁●うえだ・じん
1991年12月10日生まれ、京都府出身。一条クラブ、青森山田中・高、青森大を経て、協和発酵キリンに入社。高校時代に全日本選手権ジュニアを連覇、2008年度は一般でも3位に入賞。12年全日本学生選手権で優勝、15年から全日本社会人選手権3連覇。2月のチームワールドカップで活躍し、チームの決勝進出に大きく貢献した。2月末に協和発酵キリンを退社し、プロ選手として活動。今シーズンはT.T彩たまでプレーしていた。世界ランキング最高位は23位(2018年5月)

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