世界選手権ダーバン大会アジア大陸予選会で日本男子の5人は全員が予選を通過し、5月のダーバン(南アフリカ)で戦う権利を得た。その中で注目を浴びたのは吉村真晴(TEAM MAHARU)対馬龍(中国)の一戦だ。「グループ2」の決勝で、吉村は馬龍を4−3で破り、笑顔を見せながら応援席に拳を突き上げた。
今回の馬龍の体調は万全ではなく、欠場したとしても世界選手権への出場は世界ランキングを考えれば決まっていた。しかし、予選に出るからにはすんなりと通過したかっただろう一方の吉村は、今回の日本の出場メンバーの中では世界ランキング128位(予選当時)で5番目だったために、馬龍のグループに入ってしまった。
試合では出足から馬龍がリードを奪い、ゲームを3−1とリードするもそこから吉村が逆転で勝利を決め、本戦出場を自力で決めた。
この大会での吉村の活躍を予感させることがあった。アジア大陸予選に出発する2週間ほど前に卓球王国編集部を訪れ、取材に応じてくれた吉村。その言葉には逆境を乗り越えようと戦いを挑む決意が感じられた。
1年前の全日本選手権、その後の五輪代表選考会、そしてTリーグと安定した活躍を見せていた吉村真晴を襲ったのは、9月のプライベート生活での暴露記事と、その後のバッシングだった。五輪などの活躍で卓球人気が高まっている中、卓球の人気選手には注目が集まり、卓球と関係のない部分でも記事になってしまう状況になっている。
短めの休養を終え、吉村はTリーグや選考会に戻ってプレーしていた。ジュニア時代から取材を続けてきた卓球王国は、今までのように彼に取材のアプローチをして、彼も受けてくれた。バッシングのみならず、同時にスポンサーや一部の関係者が彼のもとから離れる中、現在の吉村の卓球への思いを聞いてみたかった。
「多くの方にご迷惑をかけたことを大変申し訳ないと思っています。ぼくから離れていく人もいたけど、変わらずにぼくを信じてくれた方も多くいた。今やることは卓球だけなので、卓球でしか自分を表現できない。何を言っても言い訳に聞こえてしまう」と彼は語り始めた。
「どこか選手としては自分に逃げ道を作っていたと思います。選手としてのもどかしさもあったし、今のままでいいのかなという迷いもありました」「辛いけど……辛いけど……パリのオリンピックは最後だと思っているので、自分のわがままはわかっていますけど、卓球に真剣に取り組みたいです」
持ち前の明るいキャクターとコメント力で、芸能活動に入っていくのかと思わせていた吉村真晴だが、「卓球は自分の軸なんだ」ということに立ち返り、歩き始めていた。
昨年11月には同年代として一緒に国際大会でともに戦ってきた「戦友」の丹羽孝希が国際大会からの引退を発表していた。
「彼の国際大会の引退は唐突すぎましたね。最後まで孝希らしいと思いましたけど、びっくりしたのと寂しい気持ちですね」。
そんな吉村を、今季から琉球アスティーダに加入した張本智和(IMG)や若手で伸び盛りの篠塚大登(愛知工業大)が刺激している。「目の前に世界のトップの選手がいるので、自分もそのレベルで戦わないといけないと思っています」
離れていく人以上に、変わらずに吉村を励まし、支えている人たちも多くいる。
「もう一度、『吉村、頑張ってるな』と感じてくれる人たちを増やしていくしかない。ここで逃げ出したり、試合で負けるわけにはいかない。何を言われてもどういう形であっても結果を出すしかない」
吉村がリオ五輪や世界選手権混合ダブルス優勝をはじめ、日本の卓球界に大きな貢献をしてきたことを忘れてはいけない。我々は彼にたくさんの希望や喜びを与えてもらった。
これからも卓球王国は吉村真晴の取材を続けていく。
(卓球王国3月号・吉村真晴インタビューより)
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