●2022ー2023 Tリーグ女子プレーオフファイナル
〈木下アビエル神奈川 3ー2 日本生命レッドエルフ〉
○長﨑美柚/張本美和 ー7、9、12 赤江夏星/早田ひな
平野美宇 ー4、ー9、ー6 早田ひな○
張本美和 ー9、ー8、6、4、ー9 伊藤美誠○
○木原美悠 6、ー6、10、ー6、7 森さくら
○木原美悠 9 伊藤美誠
木下アビエル神奈川、宿命のライバル・日本生命レッドエルフの5連覇を阻止し、悲願の初優勝!
レギュラーシーズンの両チームの勝点差が「13」あるため、プレーオフの特別規定により日本生命が3番シングルスまでのオーダーを事前(試合開始の1時間前)に公表して行われた女子プレーオフファイナル。しかし、木下の中澤鋭監督は「事前の予想どおりで、アドバンテージになった部分はあまりないですね」と試合後に語った。日本生命は2番に早田、3番に伊藤とツインエースを並べ、ダブルスを取れれば3−0で一気に勝負をつけ、ダブルスを落としても伊藤のビクトリーマッチで勝負する「二段構え」のオーダーだ。
勝負の大きなポイントは1番ダブルス。木下はレギュラーシーズンでわずか1試合の出場ながら、今月初めのWTTスターコンテンダー ゴアで優勝した長﨑/張本の起用が当たり、赤江/早田に逆転勝利。日本生命ペアは赤江が思い切りの良いフォアのパワードライブを見せたが、プレッシャーのかかる3ゲーム目の終盤はややプレーが不安定になったか。それも今後の伸び代だろう。いきなりゲームオールジュースの好勝負、2532人を呑み込んだ代々木第二体育館は早くもヒートアップする。
2番早田対平野は、「ダブルスを落とした流れを絶対に変えたかった」という早田が、1ゲーム目のラブオールから会場を震わせるような声を出す。抜群の集中力で、木下の中澤監督が「最近、左利き対策をかなりやっていて、対左は一番いけると思った」と自信を持って出した平野を完封。コースのわかりにくいバックドライブでラリー戦を優位に展開し、要所でフォアドライブを振り抜いた。3ゲーム目は3ー6から一気の8点連取、最後はフォアストレートに鮮やかなフォアドライブを決めて会心のストレート勝ち。
3番伊藤もその勢いに乗り、表ソフトの変化ある台上プレーとピッチの早さで張本の3球目攻撃を封じ、2ゲームを連取。しかし、3ゲーム目以降は伊藤が張本のYGサービスに手を焼き、4ゲーム目は3−0のリードから8点連取を許すなど、あっという間にゲームオールに追いつかれる。最終ゲームは8ー6、9ー7、10ー8とリードを保った伊藤が11ー9で際どくラリー戦を制し、昨年の全農カップトップ32船橋大会(5位決定戦)のリベンジを果たした。どちらが勝ってもおかしくない一戦だった。
5連覇に王手をかけた日本生命レッドエルフ。4番はキャプテン森さくらが、木原美悠と激突。互いに連続得点、連続失点が多い一戦だった。象徴的だったのはゲームカウント1ー1の3ゲーム目。木原の6ー0、9ー2のリードから森が7点連取で9ー9に追いつくも、木原が12ー10で辛くも奪取。ジェットコースターのような試合展開で、またもゲームオールにもつれるが、最後は6ー7から5点連取で駆け抜けた木原が勝利を収める。
男子のファイナルに続き、女子ファイナルも5番のビクトリーマッチへ。出場選手が場内で発表され、予想どおり「木原美悠と伊藤美誠」。今日の代々木第二体育館は連日の雨で湿気が強く、バック表ソフトの異質攻撃型の両選手はバックハンドに微妙なミスが出る。
湿気とも戦いながらのリスキーな1ゲームマッチ。勝利の女神が微笑んだのは木原だった。「追い込まれても最後の1本まで我慢して、相手より1本でも多く返すことが少しずつできるようになってきた」と試合後に語ったとおり、7ー9のピンチから伊藤の決定打を懸命に返球して9ー9。さらに「2本に1本はフォア前に来る」と伊藤のサービスを予測して得点し、マッチポイントを握る。
木下アビエル神奈川の初優勝を決めた1本は、木原が伊藤のバック深くへのロングサービスを読み切り、回り込んでのフォア強打を伊藤のフォアサイドに決めた。「読みどおりです。今までのTリーグでの経験だったり、ビクトリーマッチでの経験が繋がってきている。自分の勘が良かったという感じです」と笑顔で語った自画自賛の一打。日本生命レッドエルフの厚い壁を打ち砕く一打だった。
「本当に最高にうれしい。一生忘れられないという試合です」と試合後の会見で語った中澤鋭監督は、監督就任1年目で見事に結果を出した。「トップクラスの選手5人が一緒に練習できる環境はなかなかない。木下で一緒に生活したり、練習したり、その中で競争が生まれ、質の高い練習ができた」と優勝の一因を語った。
日本生命の村上恭和総監督は「残念な気持ち、悔しい気持ちはありますが、振り返ればレギュラーシーズンの20試合目、4ー0や3ー1で勝たないとセミファイナルにも進出できない状況だった。よくぞここまで到達したなという気持ちもあります」とコメント。マッチポイントを握ったダブルスを取っていれば、試合前のプランどおり3ー0での決着もあった一戦だったが、木原の積極果敢なプレーに5連覇の夢を絶たれた。「思い返せば5年前のファーストシーズンは、当時18歳だった早田ひなや平野美宇の活躍で優勝を勝ち取った。スポーツは若い選手が成長してきて時代を変えていくんだなと思います」(村上総監督)。
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