<卓球王国2015年8月号より>
1月の全日本選手権大会を連覇で飾り、
7度目の優勝を果たした水谷隼と3度目の優勝を果たした石川佳純。
ともに世界ランキング5位の堂々のトップランカー。
王者としての自信とプライド、
チャンピオンがゆえに抱える悩みをお互いに語り合った。
聞き手=今野昇
写真=江藤義典&奈良武
チャンピオンたちは彼らにしかわからない共通言語を持っている。
全日本チャンピオンの水谷隼と石川佳純は、チャンピオンしか発することのできない質問と答えを繰り返した。世界ランキング5位という地位から見える景色は同じものなのだろうか。
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●--全日本選手権大会後のインタビューで、水谷選手は「石川選手はすごい。自分の記録も彼女が抜いていく」と言い、石川選手は「9大会連続の決勝進出は本当にすごい」とお互いを尊敬し合っている。まず二人のストロングポイントをお互いに語ってもらいましょう。
水谷 13、14歳で全日本(選手権)に出てきた頃から佳純ちゃんは注目して見てました。小さい頃から他の人とかけ離れた技とか才能がありましたね。相手が打ってきたボールへの反応や空間。トップ選手に共通しているのは相手に打たれても焦らないとか、ちょっとした余裕があるんです。その時間と空間を佳純ちゃんは持っていた。すぐにボールに手が出るんじゃなくて、足がまず動いていく。小さい頃からそういう部分を感じたことがあるのは(松平)健太とオフチャロフ、そして佳純ちゃんでした。
それに勝ち負けにこだわる執念はすごい。ナショナルチームの中でも他の選手とずれがあることを彼女は感じているはず。自分が目指しているものと他の選手が目指しているものや考え方は絶対違う、と思っているはず。「もっと私は強くなりたい」という貪欲さと勝ち負けにこだわる執念は誰よりもあると思います。
●--今、言われたことはどうでしょう。
石川 光栄です(笑)。自分より若い選手を見た時、今、水谷君が言ったようなことはよくわかります。才能ある選手は(ラケットによる)ボールの触り方を見ればわかります。
全日本でも何の試合でも優勝する人は勝ち負けの執念や負けず嫌いがすごいと思いますね。私自身も勝ちたいというか、負けたくないという気持ちでやってきた。14歳の頃は、「楽しい」とか、「あっ、勝っちゃった」という気持ちだったのが、成長していくにつれて勝負へのこだわりはだんだん強くなってきた。
●--水谷選手の全日本選手権での9年連続決勝進出のすごさを一番知っているのはおそらく石川選手ではないだろうか。
石川 もちろん小学生の時から水谷君を知っているけど、17歳で全日本初優勝する時から決勝はずっと見てきました。私の中では水谷君はずっとチャンピオンというイメージがあります。
正直に言って、水谷君は卓球への理解がすごいし、深いと思う。現役選手なので(深い部分を)すべてをしゃべれないけど、「頭の中にはいっぱい詰まっているんだろうな」と、話をしても試合を見ても感じます。
それに試合を見ながら、「水谷君は何を考えてプレーしているのかな」「なぜこういう技術を使っているのか」と考えます。カットマンや攻撃選手と試合をしても、彼はナックルボールを使う。見習いたいと思うし、卓球は強く打てばいい、スピードがあればいいというものじゃない。その辺に水谷君の卓球への理解のすごさを感じますね。
それに勝負強さ。常に苦しい場面でもポーカーフェイスだし、全日本でも世界選手権の団体戦でもエースとしてのプレッシャーが大きい中での戦い方はすごい。
水谷 いいこと言うね(笑)。オレほめられるのに慣れてないから(笑)。
卓球のことで言えば、深い部分をあまり語ったこともないし、深い話になると他の選手と距離を感じてしまうし、たぶん理解を得られないから話さなくてもいいという気持ちが自分の中にある。
●--日本の頂点に立つことの苦しさは、チャンピオンでないとわからないでしょ。
石川 連覇することの難しさを今回感じたので、それを5年連続やっている水谷君のプレッシャーはものすごいと思う。その苦しさから逃れることはできないから、そのプレッシャーに打ち克つ気の持ち方とかすごく勉強になります。やっぱり水谷君のオーラが違うというのは、今年の全日本を見て感じました。
水谷 連覇を重ねていけばいくほど過去の人と比較され、記録とか騒がれ始める。そこで意識してしまう。5連覇した後、負けたけど、またそこから5連覇するのは自分も年を取るわけだから大変だし、ここで連覇を切らしたらいけないというプレッシャーになる。連覇を積み重ねるほどにプレッシャーは大きくなりますね。
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