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今野の眼

メダリストの既得権はなし。パリ五輪の選考基準が大きく変わり、トップクラス全選手がゼロから出発

東京五輪ではリザーブだった早田ひなは、パリ五輪を目指す

 

「五輪を目指すのは覚悟が必要」と語った石川佳純。2022年の選考会を前に「覚悟のスイッチ」を入れるかどうかに注目

 

国家チームの首脳部が五輪代表を決める中国と、

自由競争の中で選手自身が代表をつかみにいく日本

 

「選手たちが選考レースの過程の中で疲弊するのではないか」という質問に対し、宮崎本部長は「競争することでレベルが上がる。競争して、疲れる。さらに競争して疲れる。それを繰り返すことで選手たちは強くなっていく」と答えた。

確かに国内での激しい競争が選手を強くしていくことは間違いない。選手や母体は、競争を繰り返しながら、その日程の中でいかに個々の課題に取り組み、強化していくかに腐心していくだろう。しかし、それは今までもワールドツアーに参戦しながら、選手や母体が考えていたことと大きな差異はない。遠征による移動時間がなくなることでさらに強化する時間は増えるだろう。

また過去には、「日本では勝てないが、対外的に強い選手がいる」ために粒高や異質攻撃、カットマンなどが海外や中国選手に勝った実績を重視され、世界代表に選ばれたケースもあるが、そういう時代の日本はレベルが高くなかった。

現在のように、日本の攻撃選手が世界で活躍し、メダルを獲り、その選手たちが国内でも強くなった今、宮﨑本部長が言うように、国内競争力=国際競争力になっている。

WTTの仕組みや新型コロナの影響によって、今までの「世界ランキング至上主義的」な代表選考が大きく変わっていく。

中国のように国家チームが方針を決め、担当コーチが3名ほどの選手を見ていく中国と日本の強化方法は根本的に異なっている。日本のトップ選手はパリ五輪までは、今まで以上に、母体や個々の「チーム」によって選手強化を図り、選考会で「同じ日本選手に勝つこと」がより重視されることになる。NT(ナショナルチーム)合宿によってトップ選手たちが強化されるというよりも、個々の練習と個別メニューで選手のレベルを上げていくことになるだろう。

より個別的、より先進的な強化が日本でできるような環境も整ってきた。「個の結集」の日本が、「国の後ろ盾」の中国に対抗していくしか方法はない。

2022年1月の全日本選手権大会の結果によって、1回目のパリ五輪選考会の出場メンバーも決まってくる。2024年パリ五輪といっても、その数ヶ月前の全日本選手権直後に代表は決まる。僅差でその全日本選手権に突入する可能性もあるし、さらにその前の国内選考会で大勢(たいせい)が決まる可能性もある。獲得ポイントによって代表2名は決まるが、過去の例から言っても、団体戦用の3番目の選手は、獲得ポイント9番目、10番目の選手が起用されることは考えにくい。(過去2大会の五輪では、世界ランキング3番目の選手が団体戦用に選ばれている)

五輪代表を狙う選手たちにとっては短くも長い2年間の戦いがもうすでに始まっている。3大会連続のメダルを獲った石川佳純選手は東京五輪後の卓球王国9月21日発売号でのインタビューで「オリンピックでプレーすることはすごく楽しいし、最高です。でもそれまでの道のりが大変なので、それができるかどうか。『次は私の出番だろう』と思っている人は一生出られないです」と語っている。

まさに五輪代表は自らがつかみ取りに行くもの。その覚悟のない選手はこの長く激しい代表レースから脱落していくしかない。日本のレベルと選手層は世界の中で中国の次と評価されている。中国と違うのは、国家チームの首脳陣が最終的に「五輪で勝てる選手」を選ぶが、日本は「選手自身が代表をつかみに行ける競争」の結果で決まるという点だ。

選手に対しては公平であり、その分、過酷な競争が待ち受けていることを覚悟しなければならない。その激烈な競争を勝ち抜いた者だけが、パリ五輪の代表権を得ることができる。そしてその先には約束はされていないが、継承していくべき五輪のメダルとその栄光が待ち受けている。

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