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五輪代表外れても強さを誇示。伊藤美誠は戦い、そして笑う。彼女が語った苦悩の時期「孤独でした」

「孤独でした。みんなが想像する以上に孤独でした。このことだけは誰にも言えないし、選手には絶対見せられないから」と心情を吐露

3月17日に終わった卓球のWTTシンガポールスマッシュは、現在の国際ツアーの中では最高位のイベントだ。世界ランキングポイントでも、オリンピック、世界選手権とWTTスマッシュは同じポイントを獲得することができる。
今回のシンガポールスマッシュで日本選手での最高成績は伊藤美誠(スターツ)のベスト8だった。獲得ポイントは350で、今日発表の世界ランキングでは12位から8位に上がった。
1月の全日本卓球選手権では6回戦で敗れ、パリ五輪代表選考ポイントで平野美宇(木下グループ)を追い抜けずに、五輪のシングルス枠からもれ、さらに2月5日の日本卓球協会の五輪代表候補選手の発表では、団体戦用の3番手からも外れた伊藤美誠。

全日本卓球の敗戦後の会見では涙ながらに「これで終われないという気持ちもすごくあるけど、終わりたい気持ちもある。でも良いところで終わりたいから、もうちょっと欲張って、もうちょっと頑張ります」とコメントした伊藤。

思い返せば、東京五輪の時には混合ダブルスで金メダルを獲得した伊藤はシングルスでも金メダルを狙い、銅メダルに終わると悔し涙を流していた。五輪の金メダルは彼女が心から欲していたものだった。それゆえに、その五輪に出られないことは伊藤にとって目標を失うこと、もしくは生きていく意味を失うことと同義だったかもしれない。ゆえに「引退」という文字がちらついた。
しかし、2月8日の世界卓球出発前の会見・囲み取材では報道陣が殺到する中、「世界ランキング1位を目指します」と語った彼女に、その心境の変化を聞いてみたかった。

世界卓球・釜山大会の前から「パリ五輪にはリザーブでは行かない、自分には向いていない」という発言や、世界卓球の応援の仕方で、大会前半はSNSで誹謗中傷の書き込みもあったが、途中から彼女の献身的なアドバイスで「伊藤監督」ともてはやされるなど、彼女の世間に与えるイメージはアップダウンの激しいものだった。

 

「私は『いや、まだ東京終わってないし。今、東京のことで一生懸命なのに。なんで今?』という気持ちでした」(伊藤)

 

3月2日に卓球王国は「伊藤美誠杯」が開催された長野県千曲市で、1時間20分に渡って本人のインタビューを行った。そこで彼女は五輪選考レースでの苦悩を初めて吐露した。「試合も楽しくないし、卓球も楽しくなかった。そのどん底まで落ちた状態から這い上がるのがすごく難しかった。ただ、どん底の時に卓球をやめるのは嫌だった」(卓球王国3月21日発売号より)。

「あの頃(代表レース前半)は、卓球の面でも心が病んでいる状態でしたね」「孤独でした。みんなが想像する以上に孤独でした。このことだけは誰にも言えないし、選手には絶対見せられないから」と選考レースでの苦しい胸の内を語る。

そのインタビューでは冒頭、「こんな話をしたらびっくりすると思うんですが」と切り出し、東京五輪前の合宿に、パリ五輪の選考方法の話をされたことも話した。「私は『いや、まだ東京終わってないし。今、東京のことで一生懸命なのに。なんで今?』という気持ちでした」(伊藤)。

そして、東京五輪が終わり、心の整理もつかないまま、少しずつ彼女の歯車が狂い始めていく。同時に、コーチの松﨑太佑さんから離れて、ひとりで練習したり、ずっとベンチコーチをいれないで戦ったことにもにもインタビューで触れた。「コーチがいることのプラスもあるけど、今はひとりでやることが自分にはいいし、コーチがすべてじゃない」「私自身、後半はコーチとの言い合いが多くなって、考えがまとまらなくなったんです」と当時の状況を説明してくれた。

「引退するのでは……」という憶測も流れた今年の1月、全日本卓球での敗戦。負けた日の夜に「まずは自分の中で、7月のオリンピックの前までに世界ランキング1位を目標にすることを決めました」という気持ちの切り替えがあり、2月8日の会見・囲み取材での発言になった。

「大舞台でも緊張したことがない」と言い放っていた「強心臓」の伊藤美誠がパリ五輪代表レースで揺れ動くことなど想像できなかった。彼女はすべてに超人のような選手だった。それが東京五輪後に歯車が噛み合わなくなり、精神的にも追い詰められることになった。

最新世界ランキングで8位の伊藤は6月までに同6位の早田ひな(日本生命)を抜き、日本選手最高位になったとしても、日本卓球協会が決めたルールで五輪代表にはなれない。彼女は、今まさにパリ五輪ではなく「自分のためにWTTで戦っている」とも言えよう。

そして、締め付けられるような代表選考レースから解放されたことで、現在の伊藤美誠の表情は明るく、「ミマスマイル」が戻ってきた。
今回のWTTスマッシュを見ても、昔の伊藤に戻りつつある動きと多彩な技を見せ、ベスト8を決める試合では五輪代表レースで競い合った平野美宇をゲームオールで下した。 

7月の後はどうしますか、と聞くと、「白紙です。まずは旅行したいです。できなかったことがたくさんあるから」と答えてくれた。
ベテランのようにキャリアを重ねてきた伊藤はまだ23歳。しかし、彼女の卓球人生は20年を越え、国際舞台に登場して10年の月日が流れた。
これから夏まで、世の中がオリンピックの5色に染まっていく中、伊藤美誠は自分の色で新たな卓球人生に色を加えようとしている。(今野)

伊藤美誠の本音トークは21日発売の卓球王国で8ページに渡って掲載します。

 

パリ五輪代表選考レースの時にできなかった卓球王国単独インタビューが3月2日に行われた。吹っ切れたマシンガントークが炸裂した

 

21日に発売する5月号は世界卓球・釜山大会を事細かに報道

https://world-tt.com/blog/news/product/az325

 

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