---卓球以外に、文化的な部分での違いも感じたりはしますか?
「日本じゃ絶対許されないことも、みんな平気でしますね(笑)。ぼくも昔はやんちゃで、日本だと受け入れてもらえないこともあった。でも、こっちだとぼくみたいな性格が普通みたいで、それがすごくフィットしてます。スウェーデンは自由な国なので自分のやりたいようにできるし、性格的にも合ってるんじゃないですか。
ヨーロッパでは自分から主張しないと何も始まらないし、みんな遠慮がないです。相手はこっちがどれだけ真剣か、意志が強いのかを見ています。だから、気持ちをしっかりアピールしたほうが、こっちを見てくれる。自分から言っていかないとダメですね」
---じゃあ、特にホームシックになったりもせず?
「高校3年でソーレン・アレーンの卓球学校に留学した時は、練習環境もあまり良くなくて、友だちもいなかったのでホームシックになりました。でも今は毎日同じグループで練習する同年代の選手が3、4人いて、プライベートでも楽しく過ごせてます。
こっちがシーズンオフになる去年の夏に1回日本に帰ったんですけど、最初の1週間は『日本良いな』って思いました。でも、残りの2週間くらいは『スウェーデンに戻りたい』って。こっちの友だちにも会いたくなって、最後のほうはそんな感じでしたね。
食事は基本的に自炊です。アジア系の食べ物が恋しくなったら、中国人がやってる近くの中華料理屋に行きます。中華料理屋ですけど、寿司もありますよ(笑)」
---下世話な話かもしれないけど、金銭的な面はどうなんでしょう。
「無料でアパートに住ませてもらっているので助かっていますが、金銭的には少し厳しいですね。スペインリーグは2部に出場していて、レベルも高くないんですが、生活費を稼ぐために試合に出ている感じです。でも、来シーズンは他の国のクラブから良い条件でオファーをもらっていて、生活に余裕が出てくると思います」
---スペインリーグには助っ人で出稼ぎみたいな感じで参戦しているんですね。スウェーデンで暮らし始めて1年ちょっと経つけど、成長は感じますか?
「技術的なレベルは上がっていると思います。ただ、どれだけ良い技術があっても試合で勝てない選手って多いじゃないですか。ぼくもそうだったけど、どうやって試合を組み立てていくか、戦術、戦い方が大事だと感じます。それが試合をやっていくうちにわかるようになってきて、最近は勝てるようになってきました。まだまだ経験が少ないので、たくさん試合をしていかないとダメですね。
『自分の力が通用しないくらいのリーグに行ったほうが成長できる』とはいろんな人に言われます。レベルが低いリーグに行けば、勝ちやすいのでお金は稼げる。でも、選手として成長できるかと言われるとそうじゃない。給料は安くても、高いレベルのリーグでやったほうが成長につながるとは思っています。フランスとポーランドのクラブから来シーズンのオファーをもらっているので、給料を優先するのか、経験を優先するかはいろんな人の意見も聞いて考えているところです」
---20歳にして、生活も考え方もすっかりプロですね。他にもいろんな道があった中で、何の保証もなく、ヨーロッパに渡ってプロを目指して生きていくっていう選択は思い切ったことだと感じますが…
「やってることはプロですけど、まだ実力がともなってないので、これからです。でも、今の生活は楽しいですよ。ぼくは『良い人生を送る』っていうことを大事にしたくて、卓球はそのための手段だと思っています。スウェーデンに来たのは卓球のためですけど、卓球だけじゃなくて、いろんなことを経験できていますし」
---日本を飛び出してきた甲斐はあったと。そういえば、全日本はスウェーデンでもネット配信で見ることができたと思うけど、少しはチェックしてました?
「はい、見てました。(戸上)隼輔は同級生なんですけど、すごかったですね。嫉妬みたいな気持ちもあるし、こっちでもっと強くなって、またいつか全日本に出たい気持ちもあります。それと、大阪にいた頃に松下大星さんとも練習させてもらっていたんですが、ベスト8はすごいなって。やればできるって励まされたし、やり方次第ではチャンスがあるんだと教えられました」
---最後に選手としての最終目標はどこになるんでしょう。
「最終的な目標は世界ランク50位以内に入って、(ヨーロッパ)チャンピオンズリーグに出るようなデカいクラブでプレーしたい。それで、年収1千万以上稼ぐ。それが選手としての最終目標です」
---ありがとうございました。活躍、期待しています。
自らを「やんちゃだった」と振り返る西原だが、話ぶりは実に好感の持てる青年。20歳にして自分の意志と意見を持ち、それをしっかりと丁寧に語る。ただ、そんな言葉の端々に「プロ選手」としてのギラギラした野心のようなものが滲む。
勝つか負けるか。結果だけが自らの価値を測る物差しのプロの世界で、遠慮はいらない。日本ではネガティブな影響を及ぼすこともあった性格も、この世界では大きな武器だ。思う存分、ため込んだエネルギーをプレーで噴火させれば良い。
インタビューの最中、印象的だったのが、西原自身が誰よりも自分の可能性を信じているということ。それもプロとして生きていくうえで、大切なメンタリティに違いない。北欧で切り拓いたプロとしての人生。広大なヨーロッパで描く理想は、どんどんデカくなっていく。
【PROFILE】
西原聖真(にしはら・しょうま)
2002年3月19日生まれ、大阪府出身。小学生時代に浜寺アスリート倶楽部で全国ホープス大会優勝(2013年)。大阪桐蔭高では高校2年時(2018年)にインターハイシングルスでベスト32。高校卒業後、プロ選手を目指してスウェーデンへ渡り、今シーズンよりスウェーデンリーグ1部・シャーブリンゲに所属。
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