男子のトップ選手に混じり、練習に励む石川。新たな挑戦は、世界のトップを狙う彼女のブレークスルー(突破口)になるかもしれない。
09年世界選手権横浜大会では16歳にしてベスト8に入り、12年のロンドン五輪ではシングルスでは日本人として初めて準決勝に進出した。世界のトップへの階段を一段ずつ上っていると思いきや、去年のパリの世界選手権では3回戦で沈み、その後の国際大会でも満足のいく結果を残せないでいた。
階段を上ったり降りたりしつつ、高みに上る時の空気の薄さも実感しながら、もがいていた石川佳純。彼女にとって、今回の全日本優勝は階段を再び駆け上がっていくきっかけになるかもしれない。
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●ーー2012年ロンドン五輪の後に、狂騒というかずいぶん騒がしい雰囲気だったと思うけど、それも遠い昔のことのように思ったりしますか?
石川 あれから1年半ほど経っていると思えないですね。あっという間ですね。もう半分来て、今度はリオという感じで、ロンドンはかなり昔のようにも思えます。
●ーーでも、経験としてはとても大きなものなんだろうね。
石川 やっぱりロンドンオリンピックが今までの中で一番のビッグイベントだったし、本当に忘れられない経験。すごくうれしい経験もしたけど、悔しい経験もしたオリンピックだった。
●ーーあれだけ大変な経験をすると燃焼しすぎて、なかなか元の状態に戻れない選手もいるけど。
石川 ロンドンが終わりじゃないし、そこがスタートです。すごく楽しかったし、またあそこでやりたい。だから完全燃焼したというよりももっと強くなりたいという気持ちのほうが強かった。初めてオリンピックに出て、初めて表彰台に立って、「わあ、すごい」と思って、次のリオでも表彰台に立ちたいですし、シングルスでも成績を出したいし、またあそこの舞台で最高のプレーをしたい。
まずはオリンピックの出場権を得ることが大変だし、(シングルス出場枠は)1年前に決まるので、久しぶりにこの「来たなー」という感じがありますね。あっという間ですね。これからの1年間は出場権を得るのに必死になって、決まったら今度はチームランキングを上げるのに必死になるから、休みなしです。
●ーーロンドンが終わって、パリの世界選手権では、北朝鮮のカットマン、リ・ミョンスンに負けました。
石川 カット打ちがへたくそでした。あの試合で負けて、自分が思った以上にかなり落ち込みました。その後のジャパンオープンもダメで、そこから調子が戻らなかったですね。
●ーーそれが低迷した時期だとしたら、どこで浮上するきっかけをつかんだのだろう。
石川 今回の全日本だと思います。11月のドイツオープンでも1回戦で負けて、周りのみんなは活躍しているし。だから、全日本で勝つきっかけを作って、ここから飛躍したいと思っていました。最近の試合はあまり勝ててなかったし、ワールドカップでも大事なところで馮天薇(シンガポール)に逆転負けしていたし、勝ちたいと思ったところで勝ててなかったので悔しかった。
●ーーその原因は自分でわかっていたのですか。
石川 原因は……わかってなかったです。わかってないから悩んでいた。何で勝てないんだろうと思っていて、勝利に縁がないのかなと。全日本のミックス(混合複)もリードしていたのに、自分がチャンスボールをいっぱいミスして負けて、ショックで負けた後にめっちゃ泣いてました。優勝から縁がなくなったと、あの日の夜に思いました。
ただ、試合全体を通して、気持ちで戦うということを実感しました。それに今までは疲れていたんですよ。体力がなくて、土曜日にバテバテになっていたのに、今回は日曜日が最高というくらい良い試合ができました。男子に入れてもらってトレーニングをさせてもらって、何をやってもドベ(ビリ)なんですけど、かなり体力がつきました。終わった後に、「あと3試合できる!」と思いましたから。
●ーー男子との練習で身につけたものがかなり大きい感じですね。
石川 それはかなり大きいですね。朝の散歩から一緒に行動しています。男子の選手も男子のように私と接してくれるし、アドバイスもくれるし、練習も嫌な顔をせずにやってくれます。倉嶋さんも本当に男子の選手のように接してくれるし、アドバイスもくれます。それは本当に大きいです。
●ーーそれを聞くと、新しいレベルに上がっている感じですね。まだ若いし、どういう選手になっていくんだろうか。
石川 自分は若いという意識はそんなにないです。経験はかなり積ませてもらっていますから。陳さんからは、もっと勝負にこだわった、経験のある選手のやり方をしなさいと言われます。まずは今度の世界選手権に向かいます。去年はパリの世界選手権でつまずいてから良くなかったから。
●ーー落ち込んだ時に気分転換はどうやってやるんでしょう。
石川 気分転換はできないです。勝つことでしか気分転換はできない。でも負けている時のほうがモチベーションが高いですね。負けている時のほうがチャンスだと思います。勝っているとだらけちゃう感じがします。
●ーー自分にとってお母さんの久美さんとの距離感は変わっているのかな。
石川 陳さんに教えてもらうようになって、お母さんと練習で一緒にいる時間は少なくなりました。自立といえば自立なのかな。でもお母さんと卓球の話はしますよ。卓球を始めた時から一番私の卓球を見ていて、一番よく知っていますから。
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