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インタビュー

デフリンピックで日の丸を頂点に。デフリンピック日本代表・川口功人

ーーーフルタイムで働いてから練習しているとおっしゃっていましたが、どのような仕事をしているのでしょうか。

ぼくの職場は車のフロントドアやバンパーなどの大物の部品を保管している唯一の場所で、それを日本各地や海外に送ったりするんですけど、その際にクレームがあったらそれを受け取って、会社が悪いのかそうじゃないのかを調査して回答するというのが主な仕事です。また、レーザーを使ってバンパーなどに穴を開けたりする追加工という仕事も行っています。職場に聴覚障がい者はぼくだけですが、困ったことがあったら回りの方が助けてくれます。

 

ーーー卓球も仕事もいろいろな人と一緒にやれていいですね。

ぼくはもともと聴覚障がいの人だけではなく、健常者の人とも関わりたいという思いがあった。そういった面ではすごく楽しく過ごせています。自分自身、聴覚に障がいがあり世界が狭いので、こうやっていろいろな人と関わることでいろいろな考え方を知ることができ、社会人になって視野が広がりました。

 

⚫デフリンピック1次選考会で優勝を果たし、夢だったデフリンピックへ

昨年5月に行われた国内1次選考会で優勝し、卓球を始めた頃からの夢だったと語るデフリンピックへの出場を果たす。人生のターニングポイントとも言えるデフリンピックで川口が感じたこととは。

 

ーーー昨年の5月に行われたデフリンピックの1次選考会で優勝しました。

優勝した時は思わず涙が出てしまって、嬉しい反面、これからもっと勝てるようにという気持ちが湧いてきました。トヨタ自動車に入社してから中々良い成績が出せていなくて、上手く行かなくて落ち込んだり苦しい思いをしてきた。でもそこで諦めずに、もうちょっとだけ自分を追い込もうと思って練習後に自主練をお願いしたり、アドバイスを聞いたりして、トヨタ自動車の皆もすごく協力してくれて、そういった意識が今回の結果につながったと思います。

 

昨年5月に行われた1次選考会で優勝し、デフリンピックへのきっぷを掴んだ

 

ーーー初めての国際大会がデフリンピックですか?

世界選手権もコロナで中止になってしまって。社会人になりたての時に規模が小さいオープン大会に出たくらいで、世界の選手と本気で勝負するような大会は今回のデフリンピックが初めてです。

 

ーーー選考会を通過して出場した初めてのデフリンピックで銅メダルを獲得しました。初めてのデフリンピックはどうでしたか?

卓球を始めた時からデフリンピックに出場するのが夢で、選考会で優勝してデフリンピックに出れることになってすごくワクワクした気持ちでした。しかし実際は、メダルをかけた試合では本当にプレッシャーもありました。でもせっかくここまでやってきたからにはという気持ちで勝つことができた。今までやってきたことが報われたというか、良い結果につながってよかったと思います。ただ、シングルスは予選敗退だったので、次は予選を突破してもっと上に行きたいなと思いましたね。

 

男子団体では5大会ぶりのメダル獲得に貢献した川口(写真左)

 

ーーー世界で見るとまだまだ強い選手がたくさんいると感じましたか?

ぼくも実業団に所属してほぼ毎日練習をやらせてもらってるんですけど、ウクライナや中国は卓球が仕事みたいな感じで、ずっと練習をしています。デフリンピックに行く前からレベルが高いということは知っていて、「メダル取れるかな?」と思っていたんですけど、結果的にメダルが取れて良かったなという感じです。ただ、ウクライナや中国のレベルに行くにはもっと練習しないとダメだなと思います。

 

ーーーメダルを獲得してから反響はありましたか?

ぼくの職場はアスリートを応援しようと言う雰囲気で、デフリンピックに行く前に壮行会をしてもらって、帰ってきてからもポスターを作ってくれたりと、職場にはたくさん支援をしていただいてます。先日、トヨタ自動車の豊田社長に銅メダル獲得を報告する機会があったんですけど、中々会える方ではないのですごく緊張しました(笑)。でも、しっかりとデフリンピックの存在を社長にアピールすることができたので良かったです。

 

横浜市のスポーツ栄誉賞の贈呈式に出席した川口(写真右から2番目)

 

ーーー次の目標はなんですか?

出るからには金メダルを取りたいです。あと、望月先生はろうあの世界選手権でベスト8に入っているので、それは超えたいかなと思います(笑)。でも、世界との差はだいぶあると感じているので今後どうしていったら良いかというのは考えていかないといけないです。自分はフォアが得意なのですが、今回のデフリンピックでは相手のブロックに振り回されて負けることが多かった。今後はバックも強化して、フォアに繋げられるようなプレースタイルを目指していけたらなと思います。

 

ーーー最後に、聴覚に障がいを持つ子供の中にはあまりスポーツに挑戦したがらない子もいると思います。そんな子供達にも卓球などにスポーツを挑戦してほしいと思いますか?

卓球に限らず、耳が聞こえないだけで諦めちゃうのはもったいないと思います。人にはそれぞれハンデがあると思うんですよ。でも、耳が聞こえにくいけどスポーツができるとか、そうやって皆が抱えているハンデをそれぞれどうやって補っていくのかが重要じゃないかと思います。聞こえる聞こえないに関係なく、挑戦はしてほしいと思います。それを受け入れてくれたのがトヨタ自動車なので本当に感謝しています。

 

ーーー本日はありがとうございました。

 

 

 

 

 

【PROFILE】

川口功人(かわぐち・こうと)

1999年9月7日生まれ。神奈川県出身。横浜市立ろう特別支援学校を卒業後、トヨタ自動車に入社。パワフルなフォアドライブとガッツ溢れるプレーが持ち味。17年度全国ろうあ者選手権ユースの部シングルス1位、21年度デフリンピック1次選考会1位、第24回夏季デフリンピック男子団体銅メダル

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