今年 9月のチャイナスマッシュから11月のWTTチャンピオンズ フランクフルトまで、わずか2カ月足らずの間に、松島輝空(木下グループ)は世界の勢力図を塗り替えてみせた。
中国トップの牙城を崩し、世界ランキングはついに8位へ。 少年から青年へと脱皮を遂げる18歳が今、自らの足跡を静かに、しかし力強い言葉で振り返る。
物語のプロローグは、チャイナスマッシュ開幕のわずか4日前にあった。松島は長年愛用したバック面のラバーを『ザイア03』へと切り替える決断を下す。
「このラバーを使いこなせれば絶対に武器になる、という感覚があった」(松島)
周囲が驚くようなタイミングでの変更だが、本人に迷いはなかった。この直感が、中国トップ3の一角・梁靖崑を撃破する原動力となる。「最後の1点が取れない」という壁を、自ら選んだ新たな武器で打ち破った。
かつて、名選手たちは勝負どころで直感を信じ、己の殻を破ってきた。松島のこの決断もまた、超一流への階段を登る者が持つ「勝負師の血」が成せる業だったと言えるだろう。
インタビュー中、松島がさらりと言ってのけた言葉に耳を疑った。 「(かつての絶対王者たちに比べ)今の中国選手には隙がある。特にサービス、レシーブで。そこを狙えば、トップ3以外には負けない」(松島)
これは決して不遜な放言ではない。中国選手を神格化せず、ひとりのプレーヤーとして冷徹に解剖し、弱点を見抜く。この「観察眼」が王楚欽への勝利をたぐり寄せ、欧州のパワーヒッターたちを翻弄した。
さらに課題とされていたフォアハンドの強化が実を結び、「両ハンドの完成度」が飛躍的に高まった。今の松島には、打ち合いで中国勢を凌駕するだけの「盾」と「矛」が備わっている。
技術、戦術面での充実に加え、精神面の変化も見逃せない。今季からベンチに入る森薗政崇コーチとの共鳴だ。
「森薗さんは僕のために熱く、一生懸命やってくれる。その期待に応えたい」(松島)
以前の松島は、どこか淡々とプレーする印象があった。しかし今の彼は違う。ポイントごとに声を出し、ガッツポーズを繰り出す。熱血漢・森薗とのコンビネーションが、松島の中に眠っていた「感情」を呼び覚ました。
勝利後、漫画『呪術廻戦』にちなんだ「領域展開」のポーズを披露する茶目っ気を見せるが、実際のコート上で彼が展開しているのは、相手に何もさせない圧倒的な「自身の領域」そのものである。
世界トップ10入りを果たした松島は「世界ランキング8位という数字も、今の実力なら妥当。タイミングとしては今だった」と言った。浮足立つことなく、現在地を正確に把握するその姿は、もはやベテランの風格すら漂う。 目標は2028年ロサンゼルス五輪での金メダル。そして世界選手権での頂点だ。
この2カ月間の快進撃は、長い物語の序章に過ぎない。 18歳の怪物が、誰も見たことのない景色を私たちに見せてくれる日は、そう遠くないはずだ。
スペシャルインタビュー 松島輝空「確信の現在地」は卓球王国2026年3月号に掲載!
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