−選手にもそれぞれの性格がある中で、董さんが育てていきたいのはどんな選手ですか?
董 選手は一人ひとり、技術の特徴も違えば性格も違う。指導者も若いうちはどうしても自分の目線で物事を考えがちだけど、ぼくは選手の立場に寄り添っていきたい。選手に一番合う技術、一番合う戦術を指導していきたい。
若い指導者は自分の経験から、「この技術は簡単でしょ」「これをやらせておけば強くなるでしょ」とすぐ言ったりするけれど、自分で勝手にそう考えているだけかもしれない。選手に無理やりやらせて、無理やり型にはめようとしても、失敗するリスクのほうが高い。
選手が負けたらすぐ怒って、「あれがダメ」「これがダメ」と全部を否定しようとする指導者がいるけれど、選手が全部ダメだとしたら、指導者は普段何をしているんだということになる。選手だけがダメなのではなくて、指導者も常に選手と一緒に反省し、研究し、コミュニケーションを取っていかないといけない。そうやって指導者と選手の信頼関係ができていくんです。
−董さんは大会で選手のベンチに入ることも多いですが、やはり信頼関係がなければ、ベンチでのアドバイスも生きないでしょうね。
董 もちろん、信頼関係がなかったらベンチコーチに入っても意味がないですよ。ベンチに入って、選手の目を見た瞬間にどんな心理状態かをすぐ見抜けるくらいでないといけない。
−中国と日本では、そういうコーチと選手の関係性にも違いを感じますか?
董 中国では、選手はコーチに対してすごく信頼感がありますよ。それに中国ではプロコーチが多いし、コーチの質も高いですね。なぜかというと、中国のコーチはみんな元プロ選手だからです。卓球の指導には理論と実践があって、完全に理論だけの指導は難しい。コーチは自分の経験に基づいて、実践の部分も教えられないといけない。
もちろん日本にも、もともと卓球経験がなくても情熱を持って指導して、結果を残している方もいます。でも一流の選手が引退した後に指導者になるケースは、必ずしも多くないですよね。たとえば野球はプロ選手を引退したら、ほとんどの人がプロのコーチになるけど、卓球はどうでしょう。ちょっともったいないと思います。
−日本の若手選手のプレースタイルについてはどう思いますか?
董 日本はこの10年くらいで、男女とも若手が世界のトップレベルまで行きましたし、全体的にレベルアップしていますね。
卓球のプレーには「パワー」「スピード」「スピン」の3つの要素があって、中国では小さい頃から教えます。ひとつでも足りないとトップレベルには行けない。その中で中国が一番重視しているのは「スピン(回転)」で、1球1球の「質」への意識が高いです。サービスから3球目、レシーブから4球目で回転量の多い、質の高いボールを送ることで自分の有利なラリー展開に持ち込むことができる。
一方、日本では「スピード」を重視しているように感じます。男子の張本や、女子の伊藤(美誠)のようにあまり台から下がらずにピッチの早さで勝負する。今はボールの大きさや材質が変わって回転量が落ち、スピードタイプの選手のほうが少し有利になった面はあるかもしれません。むかしは回転量のあるボールに対しては、スピードを出していくことが難しかったですから。
−自分が指導してきた選手に対して、これから望むことは?
董 やっぱりこれからは世界で活躍してほしいですね。木造も高見も、ジュニアでは世界代表になったけど、シニアではまだ頑張らないといけない。愛工大名電中・高もジュニアでは間違いなく最もレベルの高いチームだし、有望な選手はたくさんいます。
去年の1回目の緊急事態宣言の時は、美崎クラブの練習も中断しましたけど、その後は大きな影響は出ていないし、大会もほぼ復活している。やっぱり大会が中止になると、選手のモチベーションは上がらないですよね。何のために練習しているのかわからなくなるし、モチベーションが上がらないことには選手に厳しい言葉もかけられない。これからが楽しみですね。
●6月19〜20日、千葉・旭市総合体育館で行われたアジア選手権の男子代表選考合宿。小学生時代から指導する木造勇人(愛知工業大)のベンチに入る董崎岷の姿があった。
木造はこの選考合宿で、逆転に次ぐ逆転の連続で勝ち上がり、決勝では戸上隼輔(明治大)を破って優勝。4ゲーム目10−8のマッチポイントを逃しながら、5ゲーム目を11−8で勝ち切ったプレーからは、精神面の成熟が感じられた。ジュニアで日本男子のエースを張った男が、シニアでも再び世界の舞台へ。教え子たちのさらなる活躍を、董崎岷は心待ちにしている。
◆PROFILE
董崎岷(トン・チィミン)
1973(昭和48)年11月11日生まれ、中国・上海市出身。中国ナショナルチームでプレーした後、来日して青森山田高で指導。その後、十六銀行女子卓球部コーチを経て、現在は美崎クラブや愛知工業大、愛工大名電中・高、実業団のエクセディなどで指導を行う
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