誰しもこの選手が、将来、日本のトップの指導者になっていくのではと予測していた。現役時代にそう評価される人も珍しい。クレバーな試合分析と真摯な人柄、そして明快な語り口がそう思わせた。
31歳の上田仁がドイツのブンデスリーガ1部の「ケーニヒスホーフェン」と4月1日に契約した。同選手は3月31日にT.T彩たまからの退団が発表され、その直後のタイミングでの契約発表だった。
東京に購入していた家も売り、家族でドイツに移住し、ブンデスリーガで戦う。
この「ケーニヒスホーフェン」では板垣孝司が監督を務めている。上田仁が青森山田学園時代に、同学園のコーチだった人だ。板垣は指導者として2016年に家族でドイツに渡り、すでに7年を同地で過ごしている。
卓球王国でのインタビューで上田仁はこう語った。
「Tリーグのようなプロチームでは自分の成績で給料が変わるので、そういった中で、自分がサポート役をやるのは嫌ではないけれども、自分が選手なのか、サポート役、指導者寄りになっているのかわからなくなることはありますね。
こういう感覚なら引退して次のステージに進んだほうがいいんじゃないかという気持ちと、自分がプロになった経緯(いきさつ)を考えると、ちょっと勝てなくなったからやめるということは違うんじゃないかという葛藤がありました」
「村松だったり、他の選手を見ていて、日本を飛び出して輝いている姿を見ると、それぞれのストーリーがあって、みんな順風満帆とはいかない中で、生き方としていいなと思っていました。30歳を超えて、卓球選手として勝つことも大事だけど、自分の生き方を見せることは大きく掲げているところでもあります」
上田は1991年生まれの31歳、京都市舞鶴市出身。一条クラブで指導を受けたのち、青森山田学園に進み、青森山田中の時に全国中学校大会準優勝、青森山田高でインターハイのシングルス準優勝。青森大学時代には全日本学生で優勝し、協和キリン時代には全日本社会人優勝を経験。日本代表としても活躍し、2018年ワールドチームカップでは銅メダルを獲得している。
実は高校3年の時にブンデスリーガ2部チームで好成績を残し、次のシーズンに1部チームからオファーがあったが、躊躇してドイツ行きを選択しなかった上田。それが13年間、心の中にくすぶっていた。
上田仁の31歳の決断は彼の卓球人生を変えるに違いない。「30歳を過ぎても強くなっていくヒントがドイツにあるはず」。彼は未知の世界に踏み込んでいく。きっとそこは輝いているはずだ。
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