五輪金メダリストの洞察力は鋭い。当代一の卓球の眼力を持つ水谷隼氏が卓球王国最新号で「全日本を斬る」。なぜ選手たちは敗れ、そして勝利を得たのか。
以下は卓球王国最新号「隼の眼」からの抜粋。
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戸上隼輔と篠塚大登の準決勝。
序盤は篠塚はロングサービスとショートサービスを1本ずつ出していて、効いていた。そのサウスポーのサービスに対し、2ゲーム目が終わるまで戸上があまり良いレシーブができていなかった。
篠塚が2-1でゲームをリードした4ゲーム目の2-1で、篠塚のロングサービスを戸上が回り込んで、すばらしいボールをレシーブで決めたところから、篠塚がロングサービスを出せなくなってしまった。ここがこの準決勝の勝負のポイントだった。
それまでは篠塚がうまい具合に逆を突いていた。それ以降は戸上が相手の読みを外すことが非常に増え、ロングサービスが減ったことで戸上がレシーブから積極的にいけるようになった。
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今回、篠塚は初めて準決勝まで勝ち上がった。勝負所での戦い方も良かったけれど、「1本を捨てる勇気」がなかった。ロングサービスは3ゲーム目まで効いていたのに、4ゲーム目にロングサービスを打たれた後に、ロングサービスをピタリとやめた。
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戸上隼輔と張本智和の決勝。
1ゲーム目は戸上のストレート攻撃も決まって、11-8。このゲームの7-4、戸上リードの場面で張本は初めてバックへ下回転系のロングサービスを出して、戸上はフォアで狙い打ってレシーブミスをしている。
張本が得点したのにもかかわらず、これ以降、張本が同じようなロングサービスを出さなくなった。点数を取ったが1本目のロングサービスを回り込まれて強打されそうになり、張本は「読まれている、狙われている」と感じて、バックへのロングサービスを躊躇するようになったものと推測できる。
最後まで張本のショートサービスからの展開が続いた。終盤は特に戸上が良くなっていき、5、6ゲーム目は戸上のチキータが決まって、逆に張本はチキータがどんどんできなくなった。
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戸上が最後までほぼ同じ戦術を使えたのは、変える必要がなかったとも言える。負ける時の張本はいつも戦術を変えないで、防戦一方になるパターンに陥る。負けが怖くなって、リスクを冒せないのだろう。
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以上、卓球王国4月号「隼の眼」より。
現代卓球では用具の進化や技術の進歩が早い。
水谷氏は「男子のプレーを見ていても、ラリー(数)が短くなっていて、中陣でのドライブの引き合いやロビングなどもほとんどなくなっている。ボールが硬くなっているので、昔よりも直線的に飛んでいくようになり、ラリー間の時間も短くなっている」と語り、日本の男子卓球の高速化と世代交代の波を4ページにわたって「隼の眼」で指摘している。
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