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2009年横浜大会、フェアプレー賞を受賞した水谷と岸川

準々決勝の第6ゲーム、8−9。次の1本で水谷が打ったレシーブは台をかすめたように見えた。その瞬間、日本ペアは「タッチ!」と指さし声をあげた

 

審判長も登場して10分近くもめた。しかし、日本ペアはこの時点で気持ちを切り替えていた。最後には日本ペアは次の1本に集中するために引き下がった。水谷には審判団から「フェアプレー賞」が与えられた

 

心理的にも相手を揺さぶろうと思った。

明らかに相手は動揺していると思いました[水谷]

隼に「5—10から8—10に追いついてきたくらいの

気持ちでやろう」と言われて、「そうだな」と思えた [岸川]

 

卓球ファンの期待と応援を力に変えた水谷と岸川。準決勝まで中国ペアと対戦しないツキもあった。しかし、前大会でベスト8に入り、今まで実績を積み上げてきたからこそ、第3シードを確保できたのだ。

競り合いを制し、勝ち進む日本ペアは、メダルを賭けた準々決勝でシンガポールペアと対戦した。そしてこの一戦が会場を沸かせた。まさに筋書きのないドラマがそこにあった。

×××

●—迎えたビッグゲーム、準々決勝のシンガポールのガオ・ニン、ヤン・ツー組との一戦。試合前と試合に入ってからの心の動きは? 試合の流れは?

水谷 何回もやっていた相手だし、勝率も良かったので、勝ってメダルを獲った時のことしか考えていなかった。1ゲーム目を競り合いで取られて、2、3ゲーム目は簡単に取って、流れとしては悪くなかった。いつも競り合いになるんですよ。ヤン・ツーが先に崩れてくれるので、ヤン・ツーにミスをさせて、ガオ・ニンも一緒に崩れていく展開にしたかった。

岸川 何回か試合をしているので情報もあったし、DVDも見て、勝つという意識を持って試合に臨みました。1ゲーム目を取ったほうが勢いに乗っていけるのに、1ゲーム目を競り合いで落とした時には「これは痛いな」と思った。でも2、3ゲーム目を取れて逆転できたのが良かったし、2ー2になったあとの5ゲーム目を取れたので流れは良かった。

 

●—6ゲーム目の8ー9の場面。水谷君が打ったレシーブがエッジをかすめたように見えたけど、そのことを説明してもらいましょう。

水谷 あれは入っていたと思います。ぼくらは9ー9になったと思った。主審が指さしていたから。ところが副審も指さして「サイド」と判定した。あれを「エッジじゃない」と言うならまだわかるけど、「サイド」と言った。ぼくは台の中からストレートに打っているわけだから、(ガオ・ニンのバック側の「サイド」は)物理的にありえない。「台の中から打ったんだからサイドはあり得ない」と審判に言ったら、まともにしゃべってくれなかった。

 

●—岸川君から見ていてどうだった?

岸川 入ってました。隼がレシーブした瞬間に台をかすめたのがわかったから、ぼくらは二人で「タッチ! 入った、入った!」と言った。隼にしか見えないなら微妙だけど、二人に見えていたし、しかも「サイド」というのはあり得なかった。

 

●—相手に対する感情は?

水谷 ぼくが「入ったでしょ?」と聞いて、当然「入った」と言ってくれると思っていたら、突然とぼけだした。

 

●—オーロラビジョンでも映された。

水谷 あれは横からの映像だったからわかりづらかったけど、上からの映像だったらボールが横に曲がっていくわけだから、すぐにわかったはず。

 

●—10分近くもめたけど、そこで気持ちがよく切れなかったね。

水谷 3、4分くらい経った時に点数はあきらめていた。ただ抗議だけは続けようと思いました。相手は入ったのを知っているわけだから、審判に対してというよりも、相手に対して「今の入ったでしょ?」とずっと聞いた。相手は「入っていない」と言うけど、彼らは入ったことを知っているわけだから、「やばいよ、どうしよう」と思う。

 

●—それは相手に相当プレッシャーをかけることになる。

水谷 心理的にも相手を揺さぶろうと思った。彼らは少し英語をしゃべるのに何も言い返してこないし、こちらを見ない。二人で中国語でしゃべっている。明らかに相手は動揺していると思いました。普通、本当に彼らが入っていないと思えば、必死に「今のは入っていない!」と言うじゃないですか。必死にならないということは、入ったのを知っているからでしょ。

岸川 3、4分経ったあとに、二人で「もう点数は変わらないと思うけど、心の準備をしながら抗議しよう」と話した。そして10分くらい経って、試合が8ー10で再開する時に、隼に「5ー10から8ー10に追いついてきたくらいの気持ちでやろう」と言われて、「そうだな」と思えた。

 

●—次のポイントは長いラリーからネットインのボールを岸川君が拾って、相手の台の横から滑るように入れた返球がすごかった。

水谷 8ー10の時のラリーですね。あれはホテルに帰ってからも何回も見ました。

岸川 (あの中断で)ぼくらは逆に集中力が上がっていた。(ネットインを返球)あれはやばいですね。後ろで打ち合いをしていて、ネットインで結構前に落ちたんで無理だなと思ったら、意外と足が速かった(笑)。倒れてもダブルスだし、次は隼が打つ。あれでいけるんじゃないかと思えた。

水谷 あの1本は大きかった。ぼくはあきらめてました(笑)。ああネットインだ、と思った瞬間に、(岸川が)タタタッと忍者みたいにそのまま走って飛び込んでいた(笑)。

 

●—ジュースに追いついて、その後、12ー11で水谷君がタイムアウトを取った。

水谷 11ー10になった時に実は(タイムアウトを取ろうか)迷った。でも8ー10から3本連取していたので、その流れは崩したくなかった。

12ー11でも一瞬迷った。でもシングルスの時でもベンチの高山さんとタイムアウトをいつ取るべきなのかをずっと話していた。ぼくはジュースの1本リードとか、マッチポイントを取った時にとるべきではないかと考え、高山さんも納得していた。悩んだら取るべきだろうと思ったから、12ー11のあそこで取った。それに自分のサービスだったから、そこで考えることもできる。ベンチではぼくがこのサービスを出したら相手はこの辺にレシーブするだろう、ということを言った。

岸川 (タイムアウトは)気持ちの切り替えですね。落ち着かせる感じです。

水谷 この1本にすべてがかかっている。今までの苦労もすべて。この1本が人生を左右する1本になるから、どんなことがあっても取るぞという気持ちだった。

岸川 考えたくなくても、メダルを決める1本というのは意識します。コートに入る時には「よし、次の1本だ」という気持ちですから。ただ次の1本に集中しようと。

 

●—大勢の観客の熱い雰囲気は感じるのかな。

水谷 ぼくは8ー10になった時から観客と一心同体になれたと思う。観客にガッツポーズをしまくって一緒に盛り上がれた。

岸川 応援の力はすごく大きい。ああいう微妙の判定のあとだったので、観客もさらに応援してくれて、そこから10ー10に追いついてみんなが応援してくれてた。

 

●—最後の1本は岸川君のバックハンドがエッジになった。8ー9の1本で気持ちを切り替えて続けたことで、そういう運もめぐってきたと言えるかもしれないけど。勝った瞬間は?

岸川 あんまり覚えていない。でも良い意味で会場の雰囲気にのまれていた。

水谷 地元でやる世界選手権で、そこでメダルを獲れるチャンスというのは少ないし、すごくうれしかった。

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