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今野の眼

なぜ卓球のラバーはこんなにも高くなったのだろう。 高いラバーがベストラバーなのか vol,2

高いラバー=高性能=ベストラバーではない。

商品の本質的な価値と値段を見極めよう

 

卓球市場の中でブランドイメージを保ちながら独自の変革を試みたのがバタフライ商品を持つタマスだ。2010年に世界で出荷価格を上げた。この時の『テナジー』の値上げで、ヨーロッパから日本への同ラバーの逆輸入を防いだ。

この頃、円高(当時1ドル90円)という為替を利用し、ヨーロッパのネットショップからラバーを買付して、関税を払わずに日本で利益を稼ぐブラックバイヤーがいたからだ。ヨーロッパの出荷価格を上げたことでヨーロッパでの『テナジー』の価格が上がり、逆輸入を阻止した。

そして2015年2月21日には『テナジー』を筆頭にバタフライの一部商品の問屋への出荷価格を再び上げた。それまでの『テナジー』の定価は本体6000円(店頭で1割引きならば5400円+税)だったが、海外との価格差のために海外、特に中国からのブラックバイヤーが日本で大量に買い付け、世界各地のバタフライの代理店が悲鳴を上げた。それによって、タマスはオープン価格(定価を設定せずに、お店が販売価格を決めるやり方)にして、お店での『テナジー』の価格は一気に7000円~8000円に高騰し、これが世界各地での標準価格になった。

『テナジー』や『ディグニクス』に代表されるバタフライ商品は、ブランドとして確立され、問屋への出荷価格も高めになっている。そして定価がもともとないオープン価格なので○%割引とは表記されずに、単純に販売価格だけがネットで表記される。

商品力のあるタマスだけが取っているやり方で、ネットショップは利益度外視でテナジーなどを安くして、それを撒き餌のようにしてネットユーザーをホームページに呼び込むやり方はしても、価格を下げすぎては『テナジー』だけでは利益は取りにくくなる。

本当は6400円が市場での適切な売価であったものが、定価が高くなり、割引があったとしても7000円~8000円の間で商品をユーザーは買うことになってはいないだろうか。

このような二重価格とも言える現象が市場にあることは否めない。それは、卓球選手たちが持つ「高いラバー、ラケットほど性能が良いはず。試合で勝てるはずだ」という思い込みと、業界(小売、メーカー)の見込みが交錯しているからだ。

卓球のラバーが3000円くらいから物価上昇率とは乖離(かいり)しながら、ラバーは5000円になり、7000円になり、ついに1万円を越える時代になってしまった。

「1万円を超えてもそれだけの価値がある」と思えば、愛好者は購入するだろうし、それが適切なものでなければ、買わない。メーカーも高いラバーが売れなければ、もう一度適切な価格のラバーの開発と販売に努めるだろう。

1997年にバタフライは『ブライス』を定価5000円で発売して、卓球市場は大騒ぎとなった。『スレイバー』『マークV』が定価2800円の時代だった。その開発やマーケティングの中心となっていた久保彰太郎さん(元タマス専務、のちに相談役・故人)とはこのことで何回も議論となった。「愛好者を苦しめることになる」と指摘すると、「今までのラバーとはレベルが違う。開発コストが膨大にかかった」と言われ、議論は結局平行線だった。

その後、『テナジー』『ディグニクス』の高価格ラバーの発売に時に、現社長の大澤卓子さんに同様に「高価格ラバーを危惧している」と言っても、答えは「開発コスト」。同じだった。

『ブライス』以降、タマスは『テナジー』『ディグニクス』で高品質のラバーを世の中に送り出し、ブランドイメージは絶対的なものになっている。しかし、それは結果として「ラバーの高価格化」のレールを引いたことでもある。(もちろん同時に『ロゼナ』のような中価格で素晴らしいヒット商品を発売したことも付け加えておく)

卓球業界ではタマスのやり方や商品、価格がすべて標準になってしまう傾向がある。一方で、『VEGA』(XIOM)のような低価格でも高品質なラバーなどがヒットしたのも、市場の正常な反応だったのかもしれない。

「高いラバーがトップ選手仕様であり、試合で勝てる」という価値観を破壊するようなメーカーが出現してほしい。

卓球愛好者は、ラバー、ラケットを買う際に、他のラバーとの性能、耐久性と価格の違いも考慮しながら、用具を選んでいくしかない。値段の「高い・安い」だけで選ぶのは危険だ。選手自身の技術レベルに合ったものが「ベストラバー」であり、「高いラバーがベストラバー」ではないのだ。

 

 

「ネットに勝てるのは、アナログの商売、

お客さんとの心のつながり」

 

日本での卓球ネットショップの草分け的な存在でありながら、早々とネットから手をひいいた前出の大手ショップのやり方は、「ネットの過剰な安売り競争後」の卓球ショップのあり方を示してくれる。

「今は地域密着でやっています。卓球場の予約も順調です」と社長は語る。

「ネットに勝てるのは、アナログの商売、お客さんとの心のつながりだと思います。時間をかけて地元に根っこを張っているので、大会も運営するし、今は楽しいですよ」

ネットビジネスを始めながらも、見えた結論は「アナログ的な心のつながりだった」。卓球というスポーツは結局人間同士のラリーを楽しむスポーツ。その卓球を楽しむための用具があり、それを販売し、地域で根を張り、卓球の普及に貢献していくのが地域の卓球ショップの役割なのかもしれない。

しかし、卓球用品のほとんどはインターネットで買える時代になった。今でも専門ショップのない地方では、市内にあるスポーツ店に行き、一角にある卓球用具売り場を見ることを楽しみにする人も多いだろう。

棚に並ぶラケットやラバーを実際に触ったり、手にしたりできるのは、用具スポーツ、卓球ならではの楽しみ方でもある。

来店する卓球マニアたちは、とっかえひっかえラケットを手にしたり、重さを測ったりして、ラバーを貼ったラケットでボールをついたりしている。

ネットショップでは味わえない、卓球ショップでの楽しみ方や購入も面白いものだ。それさえも「卓球の楽しい空間」なのかもしれない。

卓球ショップに人が集い、にぎわって、ネットショップでも適正な利益をあげながら市場が活性化していく。卓球選手たちはあれやこれや用具談義をしながら明日の勝利を願う。そんな誰もがハッピーになる時が来ることを期待している。

(卓球王国発行人 今野昇)

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